異端審問官ギイェームは偽者だった。
そればかりか、イシュガルドが異端信仰者としている、竜信仰者でもあった。
ギイェームが、再び、偽りの異端審問を行おうとしているという情報を知った私は、ドリユモン卿達と共に、ホワイトブリム前哨地の西にある、スノークローク大氷壁へと向かったのだった。
「見つけた…!」
ギイェームは、大氷壁の調査員を捕まえて、異端審問を行っている最中だった。
無実を訴える調査員の声を無視して、死して身の証を立てろと迫っている。
「そこまでだ、ギイェーーームッ!!!」
その姿を見て、激高したドリユモン卿が声を荒げる。
「これは、ドリユモン卿……そのように声を荒らげて、いったい何事です?」
ギイェームは、その声に驚くこともなく、不敵な笑みを浮かべながら振り返った。
「茶番は終わりだ。我々はお前の策略に、踊らされていた……だが、この聡い冒険者がすべてを見破ったのだ! 異端者が異端審問官を名乗るとは、なんと罪深い! イシュガルドの⺠の使命を棄て、ドラゴン族に与する悪党よ……お前を制裁するッ!」
指を突き付けながら、ドリユモン卿が宣言すると、ギイェームは不気味に笑いを漏らし始めた。
籠るような笑いは、やがて大きな嘲笑へと変化していく。
「イシュガルドの⺠の使命、ですか……くくく……はは……はははははははははッ……! 貴様らは何年それを続けてきた!? 子に、孫に、いつまで不毛な宿命を負わせるつもりだ!」
「慣習に縛られ、道を模索することもなく、この国はとうに腐りはてた。なればこそ、我が手で、⻯の牙で、変革を起こすのだ!! 来い、騎士ども! そして無謀な冒険者よ! 貴様らが恐れる⻯の力で、八つ裂きにしてくれるッ!」
ギイェームがそう言い放つと同時に、周囲に、魔物の気配が一気に増える。
見れば、大氷壁の上から、数体のバジリスクが姿を現していた。
「ついに本性を現したな。罪咎の制裁、受けてもらうぞ!」
魔物を呼び寄せ、使役するギイェームの姿をみて、ドリユモン卿は号令を下す。
そして、私達は戦闘に突入したのだった。
「観念しろ、⻯の眷属など我らの敵ではないッ!」
そう言いながら、ギイェームと直接対峙するドリユモン卿。
私も、部下の騎兵さん達と共に、バジリスクを倒していく。
やがて全てのバジリスクを倒した私達は、ドリユモン卿に加勢し、一気にギイェームを攻め立てていったのだった。
「浅い……浅い、浅いッ! 貴様らは何もかもが浅すぎるッ! 人は決してドラゴンに敵わぬ! この戦いが、いかに無意味なものか教えてやろう!」
明らかに形成は不利になっているというのに、ギイェームは、まるで怯む様子は無かった。
寧ろ、なにか切り札を隠し持っているかの様な余裕すら感じさせるなか、ギイェームが吠えたかと思うと。突如、身をくの字に折り曲げて苦しみだした。
「!?」
何事が起きたのか解らない私達は、思わず攻撃の手を止めてしまった。
そして、戸惑う私達の目の前で、ギイェームの体が変異していったのだった。
「⻯の眷属に姿を変えた!? 異端の術か……気をつけろ、冒険者!」
なんと、ギイェームは、自身の姿を竜の眷属の姿に変えたのだった。
驚愕に固まる私に、ドリユモン卿の鋭い警告の声が響く。
その声に、我に返った私は、体当たりをしてくるギイェームの攻撃を、間一髪で避けられたのだった。
竜の眷属に姿を変えたギイェームは、魔法こそ使えなくなっていたものの、その体躯に見合った体力を持っていた。
その上、さらにバシリスクと、ワイバーンを呼び寄せられ、形勢は一気に逆転されてしまった。
私達は、ヒーラーである幻術士の騎兵さんを倒されてしまわない様に注意しながら、ワイバーン、バシリスクを各個撃破していったのだった。
「ここまでだ、名も知れぬ異端者よ……」
無尽蔵とも思えたギイェームの体力だったけれど、やがて、尽きるときがやって来た。
見るからに動きの悪くなったギイェームに、ドリユモン卿が止めの剣を突き立てたのだった。
「ググ……ガァッ……貴様ら如きにィィィ!」
そう声を上げると、ギイェームは地に伏せたのだった。
力尽きたギイェームは、眷属の姿も保つことが出来なくなったのか、元の人の姿に戻っていた。
それを取り囲むように立つ私達に、息も絶え絶えに睨み付けてくる。
「ぐ……はぁ……はぁ……アインハルト家の力は衰え……名家の均衡は、崩れた……混乱が起きる……十分……だろう……」
そう言いながら、不敵な笑みを浮かべるギイェームは、私に視線を向けてくる。
「冒険者よ……貴様だけは……想定外だった……やはり、騎士などより……よほど恐ろしいな……外の……者は…………忘れるな…………⻯の牙は……いつでも貴様らの、腐った喉元に……」
そう言い残し、ギイェームは倒れ、二度と起き上がってくることは無かった。
「今は不毛に思えようとも、いつか必ずドラゴン族を滅ぼす。流れた同志の血と、都市⺠の涙に報いることができるのは、我らの剣だけなのだ……」
それを確認したドリユモン卿が、独り言のように呟く声を、渓谷に走る風が浚っていったのっだった。