「オオオッ……オオオオオッ……」
身に纏った全てのエーテルを剥ぎ取られたガルーダは、もがく様に喘いでいた。
その様は、陸に上がった魚の様にも見える。
そのまま暫くすれば、イフリートやタイタンと同じように、すぐに霧散して消えてしまうだろう。
そう思いながら、私はその姿を見ていた。
「……アーッハハハハハハッ!」
しかし、何時まで経ってもガルーダの姿は霧散する事はなかった。
それどころか、持ち直したかのように、再び、高らかな嘲笑を上げたのだった。
「愚かなクソ虫めがッ! その程度で、わたくしが寂滅するとでも思うたかッ! ここには、我が下僕らによりて、無数のクリスタルが集められておるッ!」
そう嗤うガルーダの周りに、再びエーテルが集まってきているのが見えた。
見ればイクサル族が祈りと共に、エーテルをガルーダに捧げていた。
「……くそッ! イクサル族どもの祈りを止めさせねば!」
シドさんとアルフィノくんが、イクサル族の祈祷を阻止せんと走り出そうとしたけれど、それはガルーダによって遮られてしまった。
もう一度ガルーダを戦う……そう考えて、みんなの様子を伺ってみたものの、正直、消耗した体力での連戦は厳しいと思わざるを得なかった。
「アーッハハハハハハッ! そうはさせぬぞッ、クソ虫めがッ! クソ虫の分際でッ、無上の存在であるわたくしにッ! そして、我が下僕らに牙を向けた報いはッ! 遺漏なく受けねばならぬのじゃッ!」
歯噛みをするような表情を浮かべる私達の様子に、嗜虐な表情を浮かべるガルーダは、たいそう悦が入ったように嗤い続ける。
「まずは、グリダニアのクソ虫どもに野嵐をッ! ウルダハのゲロ虫どもには砂嵐をッ! そしてッ、リムサ・ロミンサのウジ虫どもには颶嵐をッ! わたくしの嵐で、エオルゼアすべてを包み込みッ、虫ケラどもを一匹残らず切り裂いてくれようぞッ!」
そして不意に笑いを止めたかと思うと、私の方を真っすぐに睨み付けてくるガルーダ。
「だが、まずは貴様らから……わたくしに直接刃を向けた貴様らからだッ! その罪は償うには死すら生ぬるいッ! テンパードになるが良いッ! そして、その生命尽きるまで地を這い続けッ……わたくしを一向に崇め続けるが良いわッ!」
次の瞬間、ガルーダの巻き起こした風が、私の体を包み込む。
「なんじゃとッ!? 何故じゃッ……何故に貴様はテンパードにならぬッ!?」
しかし、ガルーダの嘲笑は、驚きの声によって止められることになった。
私は、自分にテンパードは利かない事を知っていたので、特に慌てることも無かったけれど、ガルーダにとっては驚愕の事態だったみたい。
平然と立っている私の姿を見て、初めて、恐れるような素振りを見せた。
そして、次の瞬間、ガルーダ自身に異変が起きた。
「か、体からッ……力が抜けるッ……!? クリスタルの力がッ……抜けていくじゃとッ……!?」
突如苦しみだしたガルーダは、身を反り返らせ、四肢をだらりと力なくぶら下げた。
そして、その胸から、緑色の光のクリスタルが姿を現したのだった。
光のクリスタルは、まっすぐに私の元へと飛んできて、そのまま私の中へと消える。
そして、私は、再び、何かが解放される様な幻視を見たのだった。
水、火、土、雷、氷、風。
エーテル六元素の光のクリスタルをすべて集めた私に見えたのは、光の籠の完成した魔法陣だった。
幻視から意識を戻した私は、目の前で力を失いつつあるガルーダを見据えた。
「なんなのじゃッ……その力はッ……? 何故、クソ虫ごときの前にッ……わたくしは正しく力を発揮できぬのじゃッ……!?」
その幻視が見えたわけでは無いのだろうけれど、私の身を守っている光の籠の力を前に、そして自分自身がうまくエーテルをコントロールできない事に、驚き戸惑うガルーダ。
「何故じゃッ……何故に揺るがぬッ……何故にひれ伏さぬのじゃッ……!」
さっきまでの余裕もなくなったガルーダには、既にイクサル族から捧げられているエーテルすらも、届いていない様だった。
「その程度のものか!」
その時、戦場に鋭い声が響いた。
見れば、いつの間にか、真っ黒な鎧に身を包んだ何者かが立っていた。
「その程度のものか! 蛮神ガルーダよ! 現存する蛮神の中で、最も邪悪で、凶暴と言われるお前の力は、その程度のものなのか!」
「ガイウス!?」
その黒い鎧の男を見て、シドさんが驚きの声をあげた。
ガレマール帝国軍第XIV軍団団長、”漆黒の王狼”ガイウス・ヴァン・バエサル。
私達の宿敵ともいえる相手との、初めての邂逅だった。