プリンセスデー。
それは、ウルダハのソーン王朝時代に起きた、とある事件を発端とした祝祭日の事。
その日は、「すべての女の子をプリンセスに!」をスローガンに、着飾った女の子たちが大通りを練り歩き、カラフルなスィーツをほおばったり、フィギュアに扮して屏風の前でポーズをとったりして、一日楽しく過ごすのが通例になっている。
その日は、私も、ちょっと浮かれた気分に身を委ねながら、華やかに飾り付けられた街中を見物していたのだった。
「み、みなさん、落ち着いてください! 三歌姫も準備をしているところですので、どうか今しばらくお待ちを……!」
街の観光を楽しみながら、ナル回廊のルピーロード国際市場前に差し掛かった時、ちょっとした人だかりと声が聞こえて来た。
その傍には、何かの催し物が行われるのか、ちょっとしたステージが作られた作られているのが見える。
どうやらその人だかりは、イベントの関係者と見物客とのトラブルの様だけれど……。
「そ、そこのあなたは冒険者さんでは!? ちょうどいいところに……よければ向こうで、話を聞いていただけませんか!? 他に頼れる方がいないのです、どうかお願いいたします……!」
その時、様子を伺っていた私と、問い詰められていたイベント関係者らしき人と目が合ってしまった。
まるで執事の様な黒服に身を包んだそのララフェルさんは、冒険者としての私に用があるみたいで、いきなり頭を下げて来た。
今日は、あまり冒険者稼業をする気は無かったんだけど、切羽詰まっている様子だし、無下に断るのも気が引けた私は、とりあえず話だけでも聞くことにしたのだった。
「ああ! 来てくださってありがとうございます!」
執事さんの後を追って、ウェルヘッドリフトの前まで来たところで、彼はこちらに振り返ると、そう言いながら再び頭を下げてきたのだった。
話を聞くと、どうやら公演に出演する出演者が、新衣装のための素材集めに出向いたまま帰ってこないのだという。
「きっと何かのトラブルに遭遇しているに違いありません! となれば、中途半端な者を探しに行かせるよりも、腕利きの冒険者さんに依頼するのが一番!」
そう言って、力強く声を上げる執事さん。
折角のプリンセスデーのイベントを楽しみにしている人も多いみたいだし、どんな公演をするのか判らないけれど、私もちょっと興味がある。
私は、彼の依頼を受けることにして、その出演者、「三歌姫」を探すことにしたのだった。
「どちらさまでしょう……? 先ほどから、私の方をご覧になっている気がするのですが……」
執事さんに言われて向かった先、西ザナラーンのホライズンで、三歌姫の一人、ナルミらしき女の子を見つけた私は、彼女に話しかけた。
どうやら、新衣装に使う染料を選び悩んでいるうちに、時間が経ってしまっていたみたい。
「えっ!? あなた、あの三歌姫のおひとりだったのかい?」
その時、私とのやり取りを聞いていた行商人さんが、驚いた様に声を掛けて来た。
どうやら、彼女の事を知っている様で、それならととっておきの染料を取り出してきてくれたのだった。
「ありがとうございます! で、では、そちらでお願いしますっ!」
彼女も、その染料の色を気に入ったようで、手を叩いて喜んでいた。
「冒険者さんのお陰で、ようやく決まりました……! みなさんをお待たせしてしまっていることですし、さっそく戻るとしますね!」
私、なにもしていないような……まぁ、いいか。
ナルミさんは、私に頭を下げると、染料を手に、軽い足取りでウルダハへと戻って行ったのだった。
「執事王さんが早く戻ってくるように言ってたですって!? ……も、もちろんわかってるわよ、ちょうどそろそろ戻ろうと思ってたところよ!」
リムサ・ロミンサで見つけたウララさんは、ファンと思われる人達に対してファンサービスを行っているところだった。
どうやら、ファンサービスに没頭するあまり時間を忘れていたみたいで、私が執事さんが待っている事を伝えると、明らかに動揺していた様だった。
「こ、このことは他のふたりや執事王さんには、ぜ~ったいに内緒にしておいてよね……!」
地道な活動をしていたことが気恥ずかしかったのか、そんな事を言い残して、ウララさんは慌てる様にウルダハへ戻って行った。
ツンデレ…? っていうのなのかなーと、その後姿を見送りながら、私はそんな事を思ったのだった。
三歌姫の最後の一人、マシャさんは、グリダニアの旧市街にある商店で話し込んでいるところを捕まえることが出来た。
どうやら、大量の発注を受けて困っていた店員さんの相談に乗ってあげていたみたいで、その間に時間が経ってしまっていたらしい。
たぶん、三歌姫としてはもちろん、彼女自身としての責務でもない事なのに、時間を忘れるほど真剣に相談に乗る辺りに、彼女の性格が出ている様な気がした。
そんな彼女に、執事さんが早く帰ってくるように言っていたと伝えると、かなりびっくりしていた様だった。
「アタシったら、だいぶ長居しちゃったみたい……と、とにかく、急いで帰らないといけないわね」
そう言って、彼女は相談を受けていた店員さんに、話の途中ですみませんと断りを入れたうえで、頑張ってくださいと励ましてから、慌ててウルダハへと戻って行ったのだった。
その姿を見送った私は、リムサ・ロミンサで少し用事を済ませた後、彼女らと同じように、ウルダハへと戻ったのだった。