「なんだか、ミンフィリアさん、あまり乗り気じゃないみたい…」
ミンフィリアさんの執務室を後にした私は、アルフィノくんの後を歩きながら、そう呟いた。
「このまま暁がウルダハに留まることに利がないことは、ミンフィリアも理解しているよ。しかし、彼女はある人を待っているのさ。だから、ウルダハから移動することを躊躇している」
私の呟きが聞こえたのか、アルフィノくんが歩きながら言葉をかけてきた。
「…待ち人?」
「かつて、ウルダハの歌姫と称された、フ・ラミンという踊り子がいた。彼女の歌や踊りは、周りの者たちを魅了し、多くの人々に愛された。そして、ミンフィリアの育ての親でもある。しかし、彼女は、第七霊災以降、忽然と姿を消した。そして、現在に至るまで、行方がわからないままだ」
つまり、ミンフィリアさんは、ウルダハから離れることで、そのフ・ラミンさんとの繋がりが切れてしまうんじゃないかと危惧している…ってことかしら。
わたしも、ついこの間まで、行方不明の…今でも、行方がハッキリしているわけじゃないけど…おねぇちゃんを探していたから、その気持ちはよく解る。
「だが、ようやく情報を掴んだよ」
そう言って、自慢げに笑みを浮かべるアルフィノくんなのだった。
「お待ちしておりましたよ……ウルダハの歌姫の件ですね? アルフィノさんから連絡を受けております」
フ・ラミンさんの情報を掴んだという、聖アダマ・ランダマ教会のイリュド神父さまの元へと向かった私は、早速、神父さまにお話を聞くことにした。
神父さまのお話では、墓参りに来た男性から、フ・ラミンさんによく似た人を見かけたことがあると言っていたみたい。
まだ、墓地に滞在していたその人に話を聞いてみると、彼女は、コスタ・デル・ソルに居たという。
とはいえ、彼女が行方不明になってから、既に5年以上経過しているんだけど…本当に、それはフ・ラミンさんなのかしら。
本人は、「誰がなんと言おうと間違いない! 」って力説していたけれど…。
でも、半信半疑のまま訪れたコスタ・デル・ソルで、本当にフ・ラミンさんの足取りを捕らえることが出来た私は、あながち、人の憧れの記憶って侮れないんだなぁって感心したのだった。
「ええ、フ・ラミンは私ですけど……もしかして、私を探しに?」
コスタ・デル・ソルから、さらにフ・ラミンさんの足取りを追った私は、レインキャッチャー樹林で花を摘んでいた彼女を見つけ出した。
とても穏やかな、上品な美しさを携えた彼女の姿は、確かに、歌姫と呼ばれていたであろう事を納得させるのに充分だった。
「まったく、探したぞ」
その時、アルフィノくんが、額の汗を拭いながら、私達の元へと現れた。
どうやら、イリュド神父さまに残した伝言を聞いて、ここまで追いかけて来たみたい。
「ようやく、お目にかかることができました。私どもは、あなたを探していたのです。フ・ラミンさん」
息を整えたアルフィノくんは、フ・ラミンさんに向き直ると、挨拶を交えながら、事情を説明し始めたのだった。
「……まぁ、ミンフィリアに。そうね、霊災のあと、しばらく身を潜めていたから……。フフ、でも良かったわ。私も、ミンフィリアに会おうと思っていたところなの」
アルフィノくんから、諸々の事情を聴いたフ・ラミンさんは、笑顔を浮かべながら、私達の要請に頷いてくれた。
その後、ミンフィリアさんに贈り物を用意したいというフ・ラミンさんのお手伝いをした後、彼女を連れて、私達は砂の家へと戻ったのだった。