「ひさしぶりね。イーディス、元気にしていたかしら?」
その日、私は久しぶりに砂の家に顔を出していた。
しばらく、エオルゼアを離れていたのもあるし、そろそろ冒険を再開しようかと思っての事だった。
「久しぶりに顔を出してくれたところ悪いのだけれど、少し、相談に乗って貰えないかしら」
そう言って、ミンフィリアさんは現状の暁を取り巻く状況について掻い摘んで説明してくれた。
それによると、どうやら、魔導城プラエトリウムでの戦いの後、帝国による脅威が退けられたことにより余裕が出来たのか、ここぞとばかりに、暁の名声力をあてにした人達が、政治的に利用しようと画策が頻発しているらしい。
少し調べれば判る事なので、そう言った人には体良くお帰り頂いているみたいだけど、応対だけでも、なかなか大変みたい。
「わたしたちは、政治的に利用される組織であってはならない……でも、もっと広く活動するためには資金も必要よ……膨大な資料や技術提供はともかく、お金のことまで、いつまでもシャーレアン本国のバルデシオン委員会に頼っていられないしね……」
そう言ったところで、ハッと顔を上げたミンフィリアさんは、「これじゃ愚痴ね」と頭を下げてきた。
状況を聞くだに、愚痴のひとつも溢したくなるのは、致し方ない事だと思うけれど。
それから、ミンフィリアさんに、賢人のみんなが、この状況をどう思っているのか、それとなく聞き出して欲しいと頼まれた私は、部屋を後にしたのだった。
「ふむ……ミンフィリアがそんな悩みを」
砂の家に居た、ヤ・シュトラさん達に話を聞き、最後にアルフィノくんのところに訪れた私は、ミンフィリアさんの想いを伝えた。
アルフィノくんも、他の賢人たちも、やっぱり、今の暁を取り巻く状況は好ましく思っていないみたいで、なにかしら手を打つ必要があると思っているみたいだった。
「ちょうど私も、現状の暁について、考えていることがあってね……いい機会かもしれないな。ミンフィリアに話をしてみよう。イーディス、君も来てくれ」
そう言って、アルフィノくんは私を連れて、ミンフィリアさんの元へと向かっていったのだった。
「あら、どうしたの、ふたりして」
「ミンフィリア、提案がある。 砂の家……暁の血盟の本部を移転しないか」
揃って勢い込んで入室した私達を出迎えたミンフィリアさんに、アルフィノくんは、そう言って、砂の家の移転計画を持ち掛けたのだった。
アルフィノくんが言うには、砂の家があるベスパーベイは、ウルダハにも近いし、そもそも、ウルダハ領地内にあるが故に、砂蝎衆の影響が常に付きまとう。
本来、全ての国や団体から、等しく一定の距離を保つべきである暁の血盟のある場所としては、不適切なのではないかという話だった。
実際、砂蝎衆が、それこそ何かを画策すれば、活動拠点としての基盤自体が揺らぎかねないのは、危ういとも言える。
「……でも、アルフィノ。移転といったって、いったいどこに?」
そう問い返すミンフィリアさんに、アルフィノくんは待ち構えていたかのように笑みを浮かべながら、答えた。
「レヴナンツトールだよ」
確かに、レヴナンツトールなら、三国からも適度に離れているし、何処の国にも所属していない場所だ。
ここ最近の、レヴナンツトールの発展と活気は、他の3都市にも引けを取らないし、なによりも、冒険の最前線とも言えるあそこなら、国の柵を超えて活動すべき暁の拠点としては、最適な場所かも知れない。
「……あなたの言っていることは理解できるわ。現状を踏まえても、移転を考えるべきなのでしょうけど……移転か……ウルダハを離れるのね……」
アルフィノくんの説明を受けて、ミンフィリアさんも納得はしていた様だけど、なにか気にかかる事でもあるのか、その表情はいまひとつ浮かない感じだった。
「盟主は君だ。ゆっくり考えて、答えを出すといい。暁は、その母体となった十二跡調査会のときから、このウルダハにあった……いろいろ名残は惜しいだろうが、祖父の理念をかなえるのに、場所は問わないはずだよ」
アルフィノくんのその言葉に、ミンフィリアさんは背後に掲げてある杖を見上げながら、少し考えさせてほしいと答えたのだった。