偽者の異端審問官、ギイェームを倒した私達は、ホワイトブリム前哨地へと戻ってきていた。
そして、前哨地で待っていたアルフィノくん、シドさんと共に、改めて、ドリユモン卿の元へ訪れたのだった。
「異端者討伐への協力、真に感謝する。おかげで、新たな犠牲者を出さずにすんだ……貴公たちが暁の血盟の一員であり、そちらが機工師のシド殿というのは本当のようだ……そうか、暁は健在なのだな。私個人としても、うれしく思うぞ!」
その言葉に、ドリユモン卿の信用を勝ち得た事を確信した私達は、お互いに視線を合わせ、頷き合ったのだった。
「さて、こうやって身の潔白を証明できたわけだ。早速だが、イシュガルドが管理している、飛空艇エンタープライズを返還していただきたい」
ドリユモン卿の言葉に安心したアルフィノくんが、早速、エンタープライズの返還を求めると、ドリユモン卿はその表情を若干曇らせた。
「そうだな、本来あるべき主人のもとへ還るのは当然のこと。それに、貴公たちはイシュガルドを混乱から救ってくれた。早々にエンタープライズをお返ししたいところなのだが……」
「……砦の奪還が、難航していると?」
アルフィノくんの言葉に、渋い顔をしたまま頷く、ドリユモン卿。
やはり、長い闘いで兵が疲弊し、膠着状態に陥っているらしい。
「情けない話だが、もはや、いつになるのか見当もつかん状況なのだ」
苦虫を噛み潰した様に、深い皴を眉間に寄せながら、ドリユモン卿は頭を振った。
その様子を見て、アルフィノくんが私の方に視線を送ってきた。
「膠着が解かれたとしても、その時イシュガルドが勝ってる保証もないからな……我々が取り返すしかないだろう」
矢面に立つのは私なんだけど……まぁ、仕方ないか。
そんな事になるんじゃないかなーって予感もしていたし、それが私の役割でもあるんだしね。
「ああ、貴公になら任せられる。今一度、この地で力をふるってほしい」
そう言って、ドリユモン卿は、私の目を真っすぐに見つめながら、状況の打破を懇願してきたのだった。
「ここが、ストーンヴィジル砦……」
キャンプ・ドラゴンヘッドで、ストーンヴィジル砦の奪還作戦に協力してくれる人を集めた私は、彼らと共に、ストーンヴィジル砦に侵入していた。
今回、協力に応じてくれたのは、ニトさん、ウィストゲイムさん、ケンタさん。
ちなみに今回は、アルフィノくん、シドさんも同行しているけれど、2人には、私達が魔物を排除した後に付いて来るように伝えてある。
砦の中は、ドリユモン卿の言った通り、竜の眷属や、さらにその手下の魔物で溢れかえっていた。
霊災の被害か、それとも長いドラゴンとの闘いのダメージかはわからないけれど、彼方此方の壁は崩れ、床は抜け落ち、崩落した天井からは、青い空が見え隠れしていた。
そんな荒れた砦内を、私達は、注意深く進んで行ったのだった。
ストーンヴィジル砦の内部には、竜の眷属だけではなく、竜そのものも待ち構えていた。
流石に、ドラゴンの力は、眷属などとは段違いで、かなりの苦戦を強いられたけれど、同行してくれたみんなのおかげで、なんとか撃破して進むことが出来た。
そして、遂に最深部へと、私達は辿り着いたのだった。
そこには、1体の巨大なドラゴンが居た。
どうやら、休眠しているようで、まだ、私達の存在に気付いている様子は無かった。
そして、そのドラゴンの向こう、向かい側の砦の上に、一機の飛空艇が係留されているのが見えた。
「……あったぞ。あれがエンタープライズだ」
それを見つけたアルフィノくんが、飛空艇を指さして声を上げる。
「エンタープライズ……しかし、あのドラゴンはどうする?」
シドさんが、眠るドラゴンに視線を落としながら聞いてきた。
相変わらず、ドラゴンは眠り続けていて、私達に気づく気配もなかった。
多分、長い間、ここまで人に侵入されることが無かったから、油断しきっているんだろうなぁ…。
「私たちの目的は、あくまで蛮神ガルーダだ……無駄な消耗を避けたい。奴が気付く前にエンタープライズに辿り着き、出発するしかあるまい」
そう言って、アルフィノくんとシドさんは、ドラゴンを起こさない様に静かに脇を通って、エンタープライズへと向かっていった。
私達、冒険者は、何時ドラゴンが起きても対処できるように警戒しながら、その様子を見守っていた。
「……!?」
その時、ザラリとした嫌な気配を感じた。
覚えのある気配に、私は警戒心を最大にして、後ろを振りかえる。
「……なるほど。次はガルーダを狙うつもりかね」
予想通り、そこにはアシエン・ラハブレアが立っていた。
すかさず、弓を構え、臨戦態勢をとる私の様子など気にもしない様に、ラハブレアは話を続けている。
「確かに、今の君の力ならば……嵐神と恐れられた彼女を、討つこともできるかもしれない……しかし。それも、この場から生きて逃れることができればの話だがね」
そして、眠るドラゴンの前に移動したラハブレアは、以前、トトラクの煉獄で見せた様に、黒い魔力をドラゴンへと放ったのだった。
その直後、跳ね起きる様に身を起こしたドラゴンの咆哮が、ストーンヴィジル砦に響き渡ったのだった。
目覚めたドラゴンは、氷のブレスを吐く氷竜だった。
強力な爪や牙による攻撃だけでも脅威だというのに、氷のブレスや、高く飛び上がってからの体当たり攻撃など、一瞬も気が抜けなかった。
私は、ときおり、戦歌でみんなをサポートしながら、弓を射続けていた。
「避けろ!!」
その時、ウィストゲイムさんの鋭い声が響いた。
見れば、高く舞い上がった氷竜がこちらに向けて口を開いている。
なにを…と思う暇もなく、巨大な氷の塊をこちらに向けて、吐き飛ばしてきた!!
「ちょっ…!!」
私達は、慌てて、その氷塊に直撃されない様に回避する。
なんとか避けることに成功したと安心する間もなく、今度は高速で滑空しながら、氷のブレスを吐きかけてくる。
戦っている広間の半分を凍らせるほどのブレスは、直撃を避けても、近づくだけで凍傷を受けてしまいそうな程の冷気を放っていた。
ラハブレアによって強化されたからなのか、それとも、これが、本来の竜族の力なのか。
どちらが正解なのかは判らないけれど、もし後者なのだとしたら、イシュガルドの戦いはまだまだ終わらなそう……なんて考えが、頭を過る。
「いけない。集中しないと」
氷竜の攻撃で、周囲の温度がかなり下がっているせいか、少し集中力が落ちているみたい。
私は、気を取り直すため、軍神のパイオンを掻き鳴らしたのだった。
それから、どのぐらい戦い続けていただろう。
すっかり手は悴み、吐いた息が氷となって前髪にこびり付くような極寒のなか、私達は戦い続けていた。
「……く。意識が」
寒さに意識が遠くなりかけるのを、体を動かしては取り戻す。
そんな事を繰り返しながらも、私達は、氷竜を一歩ずつ追い詰めていった。
そしてついに、氷竜の断末魔の咆哮が、砦に響き渡るときがやって来た。
床に這いつくばった氷竜は、やがて、霧散するように消え去っていく。
息を切らしながらそれを見ていた私達は、やがて、周囲が吹雪の音しかしなくなった時、やっと安堵の息を付けたのだった。