「……うん?」
それは、レインキャッチャー樹林で伐採を行っていた時の事だった。
木のうろの中に、なにか光るものを見つけた私は、そこに顔を近づけて、覗きこんでみた。
そこにあったのは、小さなガラス瓶だった。
好奇心に誘われるまま、うろに手を突っ込み、それをつまみ出してみる。
「ゴミ……というわけでも無さそう?」
それは私の手のひらよりも少し大きいぐらいの大きさで、中には羊皮紙らしきものが入っていた。
瓶の口にはコルクが詰められ、厳重に封蝋まで施されている。
瓶自体は、長い年月を感じさせる様に薄汚れてはいたけれど、ひび一つ入っておらず、中身の状態は保たれている様に見えた。
「……開けて……みようかな?」
瓶を持ち上げ、日に透かしながら、私は独り言ちた。
もし、これが誰かに宛てた手紙だったりしたらと思うと、ちょっと気が引けるけれど、瓶に宛名は無いし、うろの中にも他には何もなかったので、その可能性は低そうだった。
もし、誰かへの手紙だったら、届けることで、開けてしまったお詫びにしよう。
そんな事を思いつつ、何処かワクワクする気持ちを抑えながら、私は、瓶の封蝋を破ったのだった。
「これは…地図…よね?」
瓶の中に入っていた羊皮紙は、どこかの古い地図の様だった。
ただし、そこに描かれいてたのは、どこかのエリアの一角のみで、パッと見、何処を示しているのか皆目見当がつかなかった。
そして、その小さな地図の真ん中には、何かを記すかのように×印が書き込まれていた。
「これ、もしかして、宝の地図みたいなものかしら…?」
そんな事を呟きながら、地図を裏返してみると、羊皮紙の端に、何か文字が書かれているのを発見した。
それは私の知っている文字ではあったけれど、不規則に並べられている様で、その文字列は意味不明だった。
その時、ふと、以前、この辺りで出会った男性の事を思い出した。
自分の事をトレジャーハンターと名乗ったその人は、世界中に埋もれている宝の地図を探し出し、隠された財宝を手に入れる事を生業にしていると言っていた。
そして、その時、宝の地図の解読方法を記した手帳を貰っていたことを思い出した私は、鞄の底からそれを取り出すと、ペラペラと捲りながら、地図に書き込まれた文字を調べてみたのだった。
「んーっと……外地……ラノ…シア……かな?」
調べた結果、そこに書かれていた文字は、外地ラノシア地方を示していた。
私は、普段使っている現在の地図を取り出すと、古地図に描かれている場所を探し出し、そして、その場所に向けて移動を開始したのだった。
「この辺りのはずだけど……」
高地ラノシアのニーム浮遊遺跡の辺りにやって来た私は、古地図を取り出しながら、周囲を見回した。
流石に見て判るような状態では置かれていないとは思うけれど……何処に隠されているのかしら……。
その時、注意深く茂みや遺跡の影を探っていた私の視界に、不自然に盛り上がった地面が見えた。
明らかに怪しい感じのそこを、手持ちのスコップを使って掘ってみると、程なくしてカキンッと硬質のものに当たる手ごたえを感じた。
「おー。本当に宝箱だー!」
自分の頭と同じぐらいの大きさの宝箱の発見に、否応なく気分が上がる私は、それを掘り出すと、早速、蓋に手を掛けたのだった。
「……あ。そう言えば、罠が仕掛けられているんだっけ……?」
以前、同じように宝箱を開けた時に、モンスター寄せの罠が仕掛けられていたことを思い出した私は、手を止めて、宝箱を睨み付ける様に見下ろした。
とは言うものの、私に罠を解除する様な技術は無いし……折角掘り出したのに、このままというのもなんだか悔しいし。
「うーん……まぁ、幸い、この周辺には、そんなに強い魔物がいる訳でもないし……大丈夫かな?」
周囲を見回しながら、楽観的にそう呟いた私は、改めて宝箱に手をかけると、えいやっとばかりに蓋を開いたのだった。
それと同時に、小さく、何かが割れる音が聞こえると同時に、周囲に甘い匂いが漂ったのだった。
ズルリ…ズルリ……
それから暫くして、何かが這いずるような音が、私の耳朶に届いて来た。
それは、崖下の方から聞こえてくる様で、徐々に、近づいてきているのが判る。
私は、弓を構えながら、それが姿を現すのをじっと待っていたのだった。
それは、巨大な軟体の魔物だった。
この周囲では見ない魔物だったけれど、崖下の方には生息していたのかも知れない。
ある意味、宝箱と同様に、新しい発見なのかも知れない。
予想外の魔物の姿に、一瞬、戸惑った私だったけれど、脅威というわけでもなかったので、程なくして、全て排除することが出来た。
多分、宝箱に仕掛けられていた罠が、それほど強い魔物を誘き寄せられるものでは無かったのだろう。
逆に、もっと強い魔物を引き寄せる罠が仕掛けられている事もあるかも知れないから、注意はしないといけないかも知れない。
「宝箱の中身は…ウォーターシャードと、ギル。これは…なんだろう…?」
とりあえず引き寄せられた魔物を排除し、落ち着いた私は、宝箱の中身を確認していた。
そこには、幾何かのギルと、50個ほどのウォーターシャード、そして用途の判らない不思議な石板の様なものが3つ入っていた。
この時の私は知らなかったけれど、それは、アラガントームストーンと呼ばれるもので、古代アラグ文明時代の遺物だった。
なんでも一部の好事家にはこれを好んで集めている人達がいるらしく、結構な高値で取引されているらしい。
宝箱の中身として、これが当たりだったのか、外れだったのかは判らないけれど、なんだか、地図を掘り起こして、隠された物を探し出す行為と言うのは、如何にも冒険者していて、なかなかワクワク出来た。
もし、また、地図を見つけることが出来たら、今度は誰かと一緒に、このワクワク感を共有するのも良いかもしれない。
私は、掘り起こした穴を埋め、宝箱を片付けると、その場を立ち去りながら、そんな事を思ったのだった。