その日、グリダニアのミィ・ケット野外音楽堂の側を通った時、普段目にしないような、派手な装飾がされている事に気が付いた。
なんというか、ピンク! といった感じで、そこかしこにハートマークが見えている。
「冒険者さん、こんにちわ~♪ みんなの愛の伝道師、リゼットちゃんこと、リゼット・ド・ヴァレンティオンでぇ~~っす☆」
ミィ・ケット音楽堂の中心にいた人の第一印象は、とても強烈なものだった。
真っ赤な生地に、フリルをたくさんあしらった真っ白なエプロン、すらりとした長い足をのぞかせる丈の短いスカート。
そして、帽子に付けられた、真っ赤なハート。
そのすべてが、言動と合わせて、とても派手で、圧倒されるものだった。
「さてさて、ただいまヴァレンティオンデーが開催中ですっ♪ これは純愛を貫いた私のご先祖サマ、アラベル・ド・ヴァレンティオン伯爵にちなんだ祝祭なの☆」
それにしてもこの声、一体どこから出しているんだろう……。
そんな事を思いながらも、リゼットさんの話はどんどん進んで行く。
「リゼットは、ご先祖サマにあやかって、みんなの愛を応援するために、とおいとお~い、イシュガルドからやってきました♪ ところで、愛って形がなくて、表現するのが、と~っても難しいよね……どんなに頑張っても、三分の一も伝わらない気がするでしょ? だから今回は、ヴァレンティオン家に代々伝わる、特別な愛を表現する方法を、みんなに教えちゃいま~す☆ この方法なら、きっと想いがぜ~んぶっ、伝わるよ♪ さあ、アナタもオルトファンスから、愛を表現する方法を教えてもらってね♪ そして大切な人に、その想いをい~っぱい、伝えちゃお☆」
リゼットさんの話は、言葉を挟むことも許さない勢いで進んで行った。
ぐいぐい迫ってくるその迫力に、後ずさることも許されないまま、私は、こくこくと頷くことしか許されなかったのだった。
「それじゃあ、まずは僕が愛を表現してみせよう。君はそれを真似してみてくれ」
音楽堂の入り口にいた、オルトフェンスさんに声をかけると、彼はそう言って、 投げキッスをする様な仕草を見せた。
一見すると、普通の投げキッスの様な気がしたけれど、彼が口元に手をやった瞬間、そこに、ポンッとハートが生まれた。
そして、オルトフェンスさんが、ふっと息をかけると、そのハートがふわふわと空へと舞っていったのだった。
……なにこれ、可愛い!
ハートは魔法で出しているのだろうか。
それにしては、詠唱もエーテルの集中も無かったけれど…ともかく、確かにこれなら、気持ちを相手に確実に伝えることが出来る。
それも、視覚的に。
早速、私も、オルトフェンスさんを真似て、投げキッスをやってみた。
「……あれ?」
しかし、私の手のひらにはハートは生まれず、ただの投げキッスになってしまった。
「うーん……形はきれいだけど、心が見えないね。それじゃあ愛を表現することはできない。さあ、できるまでつきあうから、何度でもやろう!」
そうして、オルトフェンスさんの特訓が始まった。
「それじゃダメだ! もっと心を見せて!」
「なんで恥ずかしがるんだ! もっと想いを込めろ!」
オルトフェンスさんは、意外と熱血系だった。
何度も挑戦しては、一向に出てこないハートに、肩を落とす私だったけれど、その度にオルトフェンスさんに激に背中を押されて、気持ちを持ち直せた。
そうして、何度も何度も繰り返し、何十回目になるか判らないチャレンジで、かなりへとへとになってきた頃、その時は来たのだった。
「……出た!!」
遂に、手のひらの上に、ふわふわと漂うハートが現れた時は、それまでの疲れなんてあっという間に吹き飛んでしまった。
そして、ふっと息を吹きかけると、ハートはふわふわと飛んでいき、まるでシャボン玉の様に風に乗って消えていったのだった。
「やったじゃないか! 僕から見ても、完璧に「愛」を表現できていたよ! いまの方法なら、想いも十全に伝わるはずだ。心ゆくまで、大切な人へ愛を表現するといい!」
それを見て、オルトフェンスさんが拍手をしながら、褒めてくれた。
「ありがとうございます!!」
私は、満面の笑みで、オルトフェンスさんにお礼を返したのだった。
あなたに届け、感謝の気持ち♡