「フランセルは⻯眼の祈鎖を追えと言った……異端の嫌疑をかけられたきっかけだったからか?」
フランセルさん達を救出し、その顛末を報告に戻った私に、オルシュファンさんが唸る様に疑問を口にした。
たしかに、オルシュファンさんのいうように、この異端の嫌疑の発端は、アドネール占星台近くで起きた荷運び人襲撃事件で、アインハルト家宛ての荷物から、竜眼の祈鎖が出てきたことから始まっている。
「……洗いなおす価値はあるか……イーディス、アートボルグ砦群のリックマンから話を聞いてくれ。クルザスを巡る荷運び人の事情には、彼が詳しいはずだ」
そう言われて、私は、荷運び人たちに詳しい話を聞くため、アートボルグ砦群へと向かったのだった。
「荷運び人たちに、怪しい動きはなかったかですって? フランセルぼっちゃんにも聞かれましたけどね、こっちだって、疑われて困ってるんですよ」
アートボルグ砦群の砦の一つで、暖をとっていたリックマンさんに話を聞くと、彼は困り顔でそう答えた。
どうやら、既にフランセルさんからも事情を聞かれていたみたいで、荷運び人の中に、竜眼の祈鎖を荷物に紛れ込ませた者が居ないか疑われて、憤慨している様だった。
「……アインハルト家宛の荷物について、しつこく調べていた女ならいたって話ですがね。この異端者騒動だ、その女にしたって……」
その時、愚痴をこぼすリックマンさんの言葉の中に、気になるものがあった。
「女の人? その人は、荷運び人ではないのですか?」
私は、リックマンさんの愚痴を遮る様に、そう質問した。
もしかしたら、その女性が、なにかを知っているかもしれない。
「ええ、違いますよ……え、その女が鎖を仕込んだ可能性があると? まぁ、そこまで言うなら、ご自分で調べてはいかがですか」
そういって、リックマンさんは、ホワイトブリム前哨地から、アートボルグ砦群への輸送隊が来ていることを教えてくれた。
丁度今頃は、キャンプ・ドラゴンヘッドに立ち寄っている頃だろうと教えてもらい、私は、急ぎ、ドラゴンヘッドへと向かったのだった。
「荷物の点検? ああ、例の異端者騒ぎの影響だな。やましいことは、なーんにもないし、好きに調べてくれていいぜ」
ドラゴンヘッドに戻ると、丁度、輸送隊が、ドラゴンヘッドでの荷物の仕分けをしているところだった。
私は、荷物を仕分けている荷運び人に声をかけ、荷物をひとつひとつ調べさせてもらったのだった。
すると、アインハルト家宛ての荷物全てから、竜眼の祈鎖が見つかった。
ただでさえ、異端の嫌疑が掛けられて警戒されている状況で、これだけの祈鎖が出てくるのは、流石に不自然すぎる。
私は、見つかった竜眼の祈鎖を手に、輸送隊の責任者と思われる荷運び人に、事情を求めにいったのだった。
「調べ物は終わったか? おかしな物なんて、見つかりっこない……この⻯眼の祈鎖が、俺んとこの荷物に入ってたって!? おいおい、冗談きついぜ……」
私の手にある竜眼の祈鎖を見て、荷運び人は顔を青くしていた。
「俺はホワイトブリム前哨地から荷物を運んできただけだ! 第一、俺が犯人だったら、こんな馬鹿な方法は選ばねぇよ。その祈鎖はあんたにやるから、騎士様のところにでも持っていってくれ」
どういうことか問い詰めると、荷運び人は、慌てて関与を否定した。
確かに、あまりにもずさんというか、いかにも見つけてくれと言わんばかりの状況だし、真っ先に疑われる彼らが入れたとも思えない。
私は、それ以上、荷運び人を問い詰めることはせず、証拠の品として、竜眼の祈鎖をオルシュファンさんの元へと持って行くことにしたのだった。
「⻯眼の祈鎖が、アインハルト家宛の荷物すべてに? このあまりにつたない手口はどうだ! 暴いてくれと言っているようなものではないか!」
私が持ち帰った竜眼の祈鎖を見て、オルシュファンさんは、我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべた。
「だが、今はその愚かさに感謝するぞ! 異端の嫌疑が仕組まれたものであることは、もはや明白! フランセルの異端審問に、待ったをかけられる!」
そう言って、オルシュファンさんは立ち上がると、外にいる審問官に、異端審問の停止を伝えてくれと、私に伝えて来たのだった。
「残念ながら、先ほど異端審問官のギイェーム様がフランセル卿をお迎えにあがりましたわ。間もなく、ウィッチドロップで異端審問がはじまる……オルシュファン卿にも、友の潔白を祈って待つようお伝えください」
しかし、外に居た審問官のブリギさんの言葉は、冷たく、吹雪の中に消えていったのだった。