異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

異端審問

「フランセルの異端審問が始まるだと!? 潔白を祈れとは白々しい……あれは、審問とは名ばかりの処刑ではないか!」

既に、フランセルさんが異端審問に召喚された事を、オルシュファンさんに伝えると、彼の激高した声が部屋に響いた。

「だが、今ならまだ止められる。私は急ぎ、部下を送る手はずを整える。お前も支度を整えてウィッチドロップへ向かってくれ。私もすぐに合流しよう!」

そう言って、近くに居た部下さんに目配せをすると、一気に、執務室の中が慌ただしくなった。
私は、オルシュファンさんに言われたとおり、一足先に、異端審問の行われている、ウィッチドロップと呼ばれる、深いクレバスへと向かったのだった。

「……異端審問官ギイェームめ」

部屋を出るときに聞こえた、オルシュファンさんの憎々し気な呟きが、妙に耳に残っていた。

 

ウィッチドロップに到着すると、崖の上に、フランセルさんとギイェームの姿が見えた。

私は、手前の岩陰で様子を伺っていた、オルシュファンさんの部下のウルリネさんに声を掛ける。

「お前だけでも間に合って幸いだ。審問官殿は護衛の神殿騎士を連れている……万が一のことになれば、俺だけでは心許ない」

万が一……それは、イシュカルドで最も権力を握っていると言われる、神殿関係者と剣を交える可能性があるという事。
それは、いろいろな意味で、覚悟を決めなくてはならない事に他ならない。
出来れば、そうなって欲しくは無いのだけど…。

 

「汝、フランセル・アインハルト。戦神ハルオーネの御名において、審問をはじめます」
「言ったはずだ、私は異端者ではない……! 建国よりドラゴン族との戦いに鉄血を捧げてきた、アインハルト家の名誉にかけて!」

そうこうしているうちに、審問が始まってしまった。
フランセルさんは、無実を訴えているが、ギイェームは聞く耳を持つつもりはない様だった。

「その名誉が問われているのですよ。四大名家に連なる者なら、ご存知でしょう? 潔白を証明するには……ただ、飛べばいい。貴方が無実の徒であるならば、魂は神に救われましょう。ですが、もしもドラゴン族の眷属と化した異端者であり、悪しき翼によって、谷底から舞い戻ったときは……」

なにそれ。
余りにも酷い審問方法に、私は怒りを通り越して、唖然としてしまった。
それはつまり、有罪無罪に関わりなく、疑わしき者は死ねと言っているのだ。
たかが、一つの首飾りが、荷物から出て来ただけで。

「お待ちを、どうか武器をお収めください! ギイェーム審問官殿。今回の異端の嫌疑について、オルシュファン隊⻑は何者かの悪しき企みがあると危惧しています。審問を中止し、どうか隊⻑の訴えをお聞きいただきたい!」

切迫した状況を見て、ウルリネさんが、岩陰から出て、ギイェームに審問の中止を訴えた。
後に続く様に、私も、岩陰から姿を見せる。

「フォルタン家の……昔なじみと聞いていましたが、愚かな選択をしたものです。名家の騎士として、何と嘆かわしい。正義は、神の御手によってのみ測られる! その邪魔立てをすることは、神への冒涜と心得なさい」

しかし、その訴えも、ギイェームには届かなかった様だった。
ギイェームの言葉に、彼の周囲に居た騎士達が、一斉に戦闘態勢をとる。

「審問官殿を傷つけるわけにはいかない。隊⻑が到着するまで、周りの騎士をおさえるぞ!」

そう言って、ウルリネさんは、神殿騎士の方へと向かっていく。
私も、その言葉に従い、ギイェームを無視して、神殿騎士達の方へと矢を撃ったのだった。

 

 

幸い、ギイェームは戦いに参加するつもりはない様だった。
ただ、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、こちらをじっと見てくる様は、正直、気味が悪かった。

さらに、ギイェームの護衛の神殿騎士は、紋章を身に付けていなかった。
本来であれば、公務である以上、その所属や正体を示すために、鎧か盾に紋章を掲げるものだと思うけど…。

ギイェームの様子といい、正体を隠す騎士といい。
言い様のない気持ち悪さを感じながら、戦い続けていると、向こうから、チョコボに乗った騎兵が走りこんできた。

 

「あれは……きたぞ、オルシュファン様だ!」

オルシュファンさんの参戦で、一気に形成逆転された神殿騎士達は、明らかに押され始めている。
このままいけば、戦いの決着もすぐに得られそう。

「チッ、こうなったら……」

その時、戦いの音の狭間で、神殿騎士の隊長の舌打ちが聞こえた気がした。
見れば、懐に手を差し入れて、何かを握る締めるような素振りを見せている。

……何をしているんだろう……?

そんな疑問が頭に過ったとき、突如、大きな黒い影が落ちたのに気が付いた。
見上げれば、なにか巨大な生き物が、羽を広げる様にして滑空してくるのが見えた。

「ドラゴンだと!? 馬鹿な、周辺の警備は万全のはず!」

オルシュファンさんの驚愕した声が雪原に響くと同時に、ドラゴンが轟音を立てて地面に激突する。
間一髪、その攻撃を避けられた私は、起き上がると同時に、標的をドラゴンに切り替えたのだった。

そこからは、完全にドラゴンの討伐戦だった。
ギイェームは、そのドラゴンが、フランセルさんが呼び寄せたものだろうと言っていたけれど、それなら、私達に襲い掛かってくるのはおかしい。
寧ろ、私には神殿騎士が、ドラゴンと共闘して戦っている様にしか見えなかった。

 

「この恨み、我が同胞が……必ず……」

ドラゴンを打倒し、神殿騎士の隊長を倒した事で、戦闘は終了した。
上がる息を整えながら、倒れた神殿騎士を見下ろしていた時、その傍らに、なにか光るものを見つけた私は、それを手に取ってみた。

それは、竜眼の祈鎖だった。

私はそれを拾い上げると、オルシュファンさんの元へと向かったのだった。

 

 

「⻯眼の祈鎖だと……!? これが、神殿騎士の懐から見つかったというのか!」

それを見て、驚愕の声を上げるオルシュファンさん。
隣に居たギイェームも、信じられないといった表情をしている。

「……オルシュファン卿、あなたの言葉には一理あるようです。私は急ぎ帰還し、真実を知らねばならないようだ」

そう言うと、ギイェームはひとり、キャンプ・ドラゴンヘッドの方へと帰って行ったのだった。
ただ、去り際に、私にだけ聞こえる様に、これ以上首を突っ込むなと警告を残していったけれど。

 

「オルシュファン、イーディス……なんと礼を言ったらいいか……」

縛を解かれたフランセルさんが、私達に頭を下げて来た。
それを制止しながら、早く帰って暖を取ろうと、オルシュファンさんはフランセルさんに笑いかけたのだった。

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