ドリユモン卿に協力を拒否された私達は、アルフィノくんの提案で、外堀を埋めていこうという話になった。
とは言うものの、ドリユモン卿に限らず、ホワイトブリム前哨地の騎兵さん達は、みんな、外部の人間である私達に近づくことを避けているみたいで、なかなか、思うような進展を得られらかった。
それでも、貴族に属さない平民の人達は、異邦人である冒険者に対しての抵抗感は少ない様で、何人かは、聞く耳を傾けてくれていた。
彼らから細かな仕事を請け負う中、少しずつ、信頼を得ている手応えを感じていたのだけれど、そこに立ち塞がったのは、またしても、ギイェームだった。
どうやら、ギイェームは、私達の動向を徹底的に監視している様だった。
異邦人である私達を監視するのは判るのだけれど、執念深く、私達の評判を上げさせまいとする言動に違和感を感じた私達は、対策の意味も含めて、ギイェーム本人の事を調べることにしたのだった。
しかし、イシュガルドでも最も権力を持つ教皇庁の直属なだけあって、皆、口をつぐみ、ほとんど情報を得ることは出来なかった。
ただ、ギイェームは昔からこの辺りを担当していた審問官というわけでは無く、つい最近、ホワイトブリム前哨地に赴任してきたのだという。
その際、吹雪の中、ギイェームが姿を消したことがあった様だったけれど、特に、彼の邪魔を阻止できるような情報では無さそうだった。
とりあえず、得た情報をアルフィノくんへと報告しに行くと、彼の様子が何かおかしかった。
なんだか、動きがぎこちない感じがする……?
「…………むぅ……………………寒い。クルザスの寒さは想像以上だよ」
………えぇ。
シドさんもそうだけど、こんな極寒の地に来ているのに、なんで薄着なんだろうって思ってはいたけれど。
てっきり、魔法とか鍛錬で、寒さを克服しているのかと思っていたのに、単に我慢していただけなんて……。
「あの……せめて、屋内に……」
そう、アルフィノくんに提案しかけたのだけど、私の言葉は、当のアルフィノくんの声に遮られてしまった。
「……まあいい。⻑きにわたる飛空艇の探索も、ついに終わりが見えてきた」
「君が得た証言によると、着任した異端審問官は、任も早々に基地の裏手に行ったということだが……衛士の制止も聞かず、慌てて為すこととは思えない。しかも、彼が着任した夜は吹雪……この地の天候事情を鑑みれば、その行動は、正気の沙汰ではない。きっと何かあるに違いない」
そう言って、アルフィノくんは、私に、ホワイトブリム前哨地の裏手。
東門と呼ばれるゲートの向こう側に、なにか秘密があるに違いないと、自信満々に言ったのだった。
東門の向こう側は、すぐに崖になっていたけれど、どうやら、その崖下へと至る道がある様だった。
私は、雪で滑り落ちてしまわない様に気を付けながら、谷底へと降りて行く。
すると、そこには一体のドラゴンの死骸が横たわっていた。
近づいてみると、ドラゴンの死骸のすぐ近くに、不自然に盛り上がった雪山があった。
まるで、ドラゴンが守る様にしている様にも見えるその雪山を、私は、堀り除けてみたのだった。
そこに埋まっていたのは、異端審問官風の恰好をした遺体だった。
よく見れば、何処かギイェームに似た顔の死体の側には、書簡が落ちていた。
私はその書簡を拾い上げると、慌てて、アルフィノくんの元へと戻ると、その事を報告したのだった。
「……なるほど、決定的だな」
私の持ってきた書簡に目を通しつつ、報告を聞いていたアルフィノくんは、ニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
書簡は、異端審問官ギイェームのホワイトブリム前哨地への赴任辞令だった。
あのギイェームが本物なのであれば、教皇庁からの正式書類である辞令を手放すとは考えにくいし、やっぱり、偽物なのだろう。
とは言うものの、この書簡だけでは、ギイェームを追い詰める材料には足りないと考えた私達は、更に情報を集めることにした。
そして、ギイェームの不審な行動を教えてくれた負傷兵さんと、その同僚さんから、決定的な証言と証拠を、得ることに成功したのだった。
「私に告発したいことがある? 悪あがきに付きあうつもりはないぞ」
再び、姿を現した私達に、ドリユモン卿は警戒心露わに、眉を顰めた。
しかし、私が集めて来た証拠を突き付けると、その表情は一変したのだった。
「これは……! お前は、ギイェームが偽の異端審問官だというのか!? ても信じられん……! だがしかし、これらの証拠はたしかに……ああ、私はなんという過ちを……!」
そう言って、ガックリと肩を落とすドリユモン卿。
「……冒険者よ、これまでの非礼は後で必ずお詫びしよう。だがまずは、これ以上の惨事を避けなければ……どうか力を貸してほしい」
しかし、次の瞬間、何かを思い出したように顔を上げると、今度は、私に協力を要請してきたのだった。
「ギイェームの偽者は、また、異端審問を行うと言って出かけて行ったのだ。おそらく、また罪のない神民の命を奪うつもりに違いない!」
ドリユモン卿の緊張感溢れる言葉に、私は、力強く頷いたのだった。