異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

目指すは神の領域

北部森林のプラウドクリークに存在していた、イクサル族の隠れ集落。
そこは、一風変わったイクサル族が気球の研究と実験を行っている場所だった。

「姐ちゃん、オメェ、木工師だろッォ? げひゃひゃひゃッァ、そのナリ見ればわかるぜッェ? モノ作りってのは、イカすよなッァ! ヒトもイクサル族も、職人に悪いヤツはいねッェ! だからオレはオメェをこの実験場に呼んだのさッァ!」

そう言いながら笑いかけて来たのは、集落のイクサル族にセズル親方と呼ばれている、集落の長だ。
どうやら彼は、ここで作っている気球……飛空艇と言っても良いのかも知れない……で、文字通り、遥かな高みへと至ろうとしているらしい。

たしかに、私は、ちょっと前に木工師ギルドに入門して、簡単な木具なら作る事が出来る様になっているけれど、よく判ったなぁ…。

「姐ちゃん、試しにオメェの腕を見せてくれよッォ! ……というのも、実は折り入って頼みたいことがあんのよッォ! ほかでもねぇ、ここじゃ作れねぇ部材を作ってほしいんだッァ!」

まるで気の合う友達に言う様に、そんな事を言ってくるセズル親方。
本当にイクサル族なのか、ちょっと疑わしく思えてきている私の気持ちなんてどこ吹く風で、親方は、私に一対の手袋を渡してきた。

「この先にフォールゴウドっつー集落があるだろッォ? そこの施設で船体部材を作って、持ってきてくれよッォ! それから、船体部材を作るときにはッァ、コイツを使いやがれッェ! エカトル空力団特製、エカトルリストグローブだッァ! ソイツを着ければッァ、オメェの木工師の腕は倍増ッゥ! バリバリ最強ッゥ、ヨロシクッゥ!」

まるでイクサル族の腕の様な、小さな羽の装飾が施された手袋を強引に押し付けられた私は、なんでこんな事になったんだろうと首を傾げながら、フォールゴウトへと向かったのだった。

 

「はじめまして、こ〜んに〜ちは〜! あれ? お嬢ちゃん、声が小さいぞぉ? もう一度! こ〜んに〜ちは〜!!」

フォールゴウトに着いた私は、船着き場にいたキキルン族から、船体素材の材料を受け取ると、浮かぶコルク亭に設置された、製作施設へと向かった。
そこには施設の管理をしている、ヒルデヤードさんという女性が居た。

「さて、今日はどんな材料を加工したいのかな〜? あら? これは……船体部材の材料じゃない! 奇遇ねぇ。こんな珍しい材料を扱う人が、ふたりもいるなんて……」

私が持ち込んだ材料を確認したヒルデヤードさんが、珍しいものを見た様に呟いた。

「ヒルデヤードさん、頼んでいた物、届いていますか?」

その時、ララフェル族の少年がやってきて、彼女に声をかけた。
どうやら、彼も、ここに製作をしにやって来た職人さんみたい。

「あれ? その船体部材の材料……ひょっとして、僕が頼んでいたものじゃないですか!? ちょっと、どうなってるんですかっ!? 横取りなんて、あんまりじゃないですか!? その材料は、僕が1ヶ月前から予約していたものなんですよ?」

私が手にしていた材料を目にした瞬間、突如、私に詰め寄ってくる少年。
ヒルデヤードさんが慌てて誤解だと説明しても、まるで聞く耳を持っていない様だった。
挙句には、どうせ材料を無駄にするだの、作れるものなら作ってみろだのと暴言を吐き始める始末だった。

「そこまで言うのなら、見せてあげる。覚悟して待ってなさいよ!」

カチンときた私は、そう啖呵を切ると、船体部材の製作に入ったのだった。

 

それから程なくして、作り上げた船体部材を、私は2人に見せた。
初めて作った部品だったけれど、セズル親方に貰ったレシピのお陰で、我ながら良く出来たと思う。

「……こっ……これは……っ!? 信じられない……見事に材料を活かしている! これを船体部材として用いるだって? いったい、どんな飛空艇を造ろうっていうんだっ……!?」

私の作った部品を品定めすると言っていた彼の表情は、どんどん驚きの色に染まっていくのが見えた。
ヒルデヤードさんも、横から覗きこみながら、感心するように頷いている。

「ぼ、冒険者さんっ……この船体部材、いったい誰の依頼で製作したんですかっ!? 教えてくださいっ!」

うっ……不味い……流石に、イクサル族に頼まれて製作してるなんて言える筈もないし……。

「……い、依頼人の事は、部外者には教えられません!」

とりあえず、私は、そう言って誤魔化すことにした。
冒険者の仕事なんて、守秘義務が付きまとうものだし、別に無理筋な理由でもないはず。

「依頼人を言えないなんて…… やはり何か、後ろめたいことがあるようですね…………まてよ? 社の技術部から、奇妙な噂を聞いたことがあります。黑衣森にて、鬱蒼とした森に隠れ、秘密兵器の試作実験をしているイクサル族がいると……」

ギクッ。

「まさかとは思っていましたが…… イクサル族といえば、グリダニアの仇敵! それが飛空艇を造るとなれば、兵器に違いない! ……ゆ、ゆ、ゆるせない! 神聖な飛空艇を人殺しの道具に使うなんて……! イクサル族めええっっ!」

彼はそう言って憤慨した様に地団駄を踏むと、声を上げながら走り去って行ってしまった。
まさかの真相(兵器なのは誤解だけど)を言い当てられて正直焦ったけれど、たぶん、放っておいても大丈夫かな。
実験場の周りには、結構強い魔物が生息しているし、入り口も柵で閉じられているし、万が一にも、実験場に辿り着くことはないだろう。

 

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

フォールゴウトで製作した船体部品を、セズル親方に渡ていた時、上の方から雄叫びが、すごい勢いで近づいてきた。
声のした方を見上げると、さっきのタタラムという少年が、一直線に走ってくるのが見えた。

「嘘ッ!?」

あれからずっと全力疾走していたのか、倒れそうなほど息を切らすタタラム少年。
何事かとのぞき込むセズル親方と、驚きに対応できない私の前で息を整えた彼は、やおら頭を上げると、セズル親方に指を突き付けたのだった。

「あなたたちですね!? 大量殺戮兵器を満載した飛空艇を建造し、グリダニアを壊滅させようと企む、イクサル族というのはっ! 自分たちが何をしているかわかってるんですかっ!? 飛空艇を人殺しの道具に使うなんて、許せないっ!」

飛空艇に絡む事になると見境がなくなるってヒルデヤードが言っていたけれど、そんなレベルじゃないような。
もし本当に、そんな事を企んでいる相手だとしたら、聞く耳を持つどころか、切り捨てられてもおかしくないのだけど…。

「オイオイオイオイ、ちょい待てよッォ! 誰がヒト殺しの道具を造ってるってッェ!? バカ言ってんじゃねぇーよッォ、このダボがッァ!」

タタラムの言葉に、聞き捨てならないとばかりに声を荒げるセズル親方。

「イクサル族は人の技術を盗用し、気球を模倣した! そして、その気球で人たちを襲っている! なんて卑劣な連中なんだっ!」

微妙に会話が噛みあっていない……というか、タタラム少年が相変わらず聞いてないのか……。

「うっせッェ! オイ、小僧ッォ! 四の五の言わずにッィ、こいつを見やがれッェ!」

セズル親方は、タタラム少年を一括すると、正面に置かれた設計図を示した。
それを見た彼は、驚きに目を丸くしていく。

「……こ、この設計図は……っ!? 気球……? いや、飛空艇なのか……? 見たこともない形状……だっ!」

床に手を付き、顔をくっつけんばかりに設計図に見入るタタラム少年の姿に、セズル親方は満足げに笑みを浮かべた。

「これこそが、オレたちが建造中の船ッェ! その名も……デズル・クワラン号ッォ! 目標到達高度はッァ……高度5000ヤルムッゥ!」
「こ、高度5000ヤルムだって!? ……ば、馬鹿なっ! 絵空事だっ! そ、そんな超高々度……噂に名高いシドの飛空艇、エンタープライズ号だって届かないはず! そこは空というよりは……もはや神の領域に近い!」

セズル親方の言葉に、腰を抜かさんばかりに驚くタタラム少年。
目標高度の事は聞いていたけれど、シドさんのエンタープライズでも無理なのか……そう考えると、すごいものを作ろうとしているのね……なんて事を内心思いながらも、私は、無言で事の成り行きを見守っていたのだった。

「だぁ〜かぁ〜らッァ! そのオメェの言う神の領域の扉を、ノックしようとしてんだよッォ! コンコンってよッォ!」

そして、セズル親方は、その高度5000ヤルムにある幻の浮遊大陸、アヤトランに辿り着くことこそが本当の目的だと語った。
そこは、かつてイクサル族の先祖が住んでいたという、彼らにとって失われた楽園として語り継がれる特別な場所。
そのアヤトランへの帰還こそが、イクサル族の宿願なのだという。

「だがよッォ、今時そんな夢を見るヤツは少ねッェ! ガルーダなんて、ヤベェ神サマ呼び出して、ヒトとの戦いに夢中なヤツらばかりよッォ……そうじゃねぇだろッォ! オレたちは夢を追うぜッェ! イクサル族の気球とヒトの飛空艇を融合させた、このデズル・クワラン号でなッァ!」

そう言って、眼下の機体に腕を広げて、意志を示すセズル親方。

「……すごい……なんて斬新な発想……それに、壮大な夢なんだ……僕……感動しましたっ! どうか……この実験場で働かせてくださいっ! このとおりですっ! 何でもします!」

セズル親方の言葉に、震える様に感動したタタラム少年は、さっきまでの剣幕もどこへやら、その場で親方に頭を下げて弟子入りを申し込んだのだった。

「使ってやってもいいがよォ、ヒトだからって容赦はしねェぞッォ!? ビシビシ働かせっから、覚悟しとけよッォ!」
「はい!」

そんな二人の様子を見ながら、さっきの親方の夢に興味を持った私も、これからも協力することを、そっと心に決めたのだった。

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