「巴術士には冷静に戦況を読み、瞬時に最適な魔法を選ぶ⼒が求められるんだ。 お前さんは、この命題に取り組む覚悟はあるのかい?」
トゥビルゲイムさんは、厳しくも真剣な眼差しで、私に問いてきた。
ここは、リムサ・ロミンサの波止場近くにある、税関所兼巴術士ギルドの受け付け。
街を歩いているとき、光り輝く、もふもふのふわふわな、すっごく可愛い動物を連れている人を見かけたので、声をかけて、色々と話を聞いてみたの。
そうしたら、リムサ・ロミンサには、巴術士のギルドがあり、巴術士として修練を重ねれば、カーバンクルを呼び出せる様になるという。
そうかー。ふわふわもふもふの子は、カーバンクルっていうのかー。
カーくんを、ひと目見たときから、もう、気になって気になって気になって仕方がなかった私は、居ても立ってもいられず、一目散に、ここにやって来たのだった。
「で、お前さんに覚悟…」「あります!」
被せ気味に返事をした私に、トゥビルゲイムさんは、ちょっと気圧されたかのように、「そ、そうか…」と答えながら、一冊の本を取り出してきた。
「こいつはグリモアと呼ばれる魔道書だ。巴術士は、こいつを読み解き、常に戦場の状態を把握しながら戦わなくちゃならん」
「それを読めば、カーくんを呼べる様になるんですか!?」
「カーくん? ああ、カーバンクルのことか…そうだな。エーテルをコントロールする術を身につければ、自ずと、召喚できるようになるだろう」
やった! 思わず、小さくガッツポーズ。
「まずは、そうだな。テンペスト陸門の外にいる魔物を倒しながら、エーテルの使い方を学んで来るんだ」
そう言って手渡されたグリモアは、ずっしりと重みを感じる厚さだった。
あれ…そういえば、弓術士ギルドのマスター、ルシアヌさんに、別のジョブに手を出すのは、弓術士として一人前になってからにしなさいって言われてたような…。
まぁ、いっか。
カーくんに逢えるんだし!
リムサ・ロミンサの宿屋で着替えた私は、早速、グリモアを手に、テンペスト陸門の外へと向かった。
グリモアには、巴術の初歩である「ルイン」の魔法の使い方が記されていたので、それを読みながら、魔法を使ってみる。
シュパーン!
今まで、魔法なんて使ったことがないので、果たして上手くいくのか心配だったけど、意外と、なんとかなった。
まぁ、慣れ親しんだ弓に比べると、やっぱり覚束ない感じなのは仕方ないのかなー。
そのうち、慣れてくるかしら。
何度か魔法を使って、さらに実際に魔物に対して使っていくうちに、だんだんとそれが形になっていくのを感じる。
そうこうしているうちに、新しい魔法も使えるようになり、手応えを確かに感じてきたころ、ついにその時は来た。
「サモン! カーバンクル・エメラルド!!」
集中させた魔法を解き放つと、エーテルの渦が巻き起こり、そこから青く輝く光獣が姿を現した!
きたぁぁぁ! 念願の、青く輝くふわふわもふもふのカーくん!
召喚されたカーくんは、クリクリとした瞳でこちらを見上げてくる。
堪らず、ギュッと抱きしめたり、撫でたり、もふもふしたりしちゃったけど、嫌がる素振りもなく受け入れてくれた。
「これから宜しくね。カーくん」
この日の新しい出会いは、きっと、ずっと記憶に残る出来事になるのだろうと確信した。