「無茶よ、シルヴェル。せめて双蛇党の協力を……」
「パワたちの移動まで、もう時間がない。準備が整うのを待っていては、奴らを取り逃がす」
「シルヴェル…… 焦る気持ちはわかるが、無謀だ。せめて、アタシと……」
レイさんとの一件があった後、しばらくしてから、弓術士ギルドに顔を出すと、ルシアヌさん、シルヴェルさん、レイさんが言い争っているところに出くわした。
聞けば、パワ・ムジュークが拠点を移動するまで、間がないこと知ったシルヴェルさんが、単身、アジトに乗り込もうとしている様だった。
「あ、イーディス! いいところに…… アンタもシルヴェルを止めてくれ!」
「……フン。冒険者とムーンキーパーに何がわかる」
私に助け船を求めるレイさんを、シルヴェルさんが鼻で笑う。
すかさず、ルシアヌさんに窘められて、バツの悪い顔を浮かべている辺り、本心では無さそうだけれど、決心は堅そうだ。
「……わかるよ。故郷とか、仲間の為に戦うこと。いろんなものごとを、ちゃんと見て、知って、戦うこと。アタシは「見る」ことの意味をここで教えてもらったから。シルヴェルが背負っているものがどれほど大きいか、よく見える」
「……俺は、お前らを仲間だと思ったことはない。足手まといだ、ついてくるな」
口元を隠しながら、シルヴェルさんはそう言い放つと、ギルドから出ていった。
「口元を隠す」意味を、私も、レイさんも、ルシアヌさんも知っている。
知っているからこそ、次に取るべき行動も解っている。
私とレイさんは、南部森林へ、シルヴェルさんを追いかけることにしたのだった。
「シルヴェルさん!」
南部森林のクォーリー・ミルの先で、草陰に蹲るシルヴェルさんを見つけた私達は、慌てて、彼に駆け寄る。
見れば、彼の周りには、複数の密猟者が倒れていた。
「レイ!? イーディス!? なぜ来た! 足手まといだと言っただろう!」
「なめんじゃないよ。弓術士の目をごまかそうったって、そうはいかない!」
レイさんが周囲を警戒しながら、驚くシルヴェルさんに言葉を返す。
どうやら、まだ、密猟者は迫ってきているようで、木々の向こう側が騒がしい。
「イーディス、追っ手を蹴散らすぞ!」
「はい!」
レイさんの合図と共に、私は弓を構え、何時でも敵を狩れる様に準備を整えた。
「……言ったはずだぞ。俺は、お前らを仲間だと思ったことはないと」
追手の密猟者を全て倒し、周囲の安全を確保したことを確認すると、口元に手をやりながら、シルヴェルさんが呟いた。
それを見て、レイさんは、やれやれといった感じで苦笑いを浮かべたのだった。
「アンタは自分のことが見えてないんだ。嘘をつくときに、口元に手を当てるクセがあること、気づいてないだろ?」
「!!」
レイさんの指摘に、ハッとするシルヴェルさん。
「どんな細かいことも見落とさないために、相手の動きをよく見る。観察して、特性を知り、立ち回りを考える。ルシアヌに、イーディスに。そして、シルヴェル。アンタに教わったことだ」
「確かにアタシらは、グリダニアをよく知らない。だから、もっと教えて、見せてくれよ。グリダニアのいいところをさ」
そう言いながら、シルヴェルさんに手を差し出すレイさん。
逡巡した後、シルヴェルさんは、レイさんの手を取り、「……ふん。今回の貸しは、それでチャラだぞ」と照れ隠しの様に答えるのだった。