異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

霧の中の岐路

「……これは…どういうことですか? レイさん」

話があるから南部森林まで来てほしいと、レイさんに言われて、私は、単身、待ち合わせ場所に向かった。
しかし、そこにいたのは、レイさんだけではなく、なんとパワ・ムジュークも一緒に居たのだった。

 

「……この冒険者も一緒に?」
「違う。……お別れを、言いたくて」

パワの言葉に、ゆっくりと頭を振りながら否定するレイさん。
そして、私に向き直って、まっすぐに私の目を見つめてくる。

「アタシはパワに負けて……悩んで…… アタシのいるべき場所は、あの都市じゃないって思ったんだ。アタシは、グリダニアとはわかり合えない。森の中でこそムーンキーパーの弓術は生きる。弓術……アタシの唯一の故郷」
「そんなこと…」
「だから!! …ごめん。アタシはパワたちと行く。ルシアヌと……シルヴェルには黙っておいてくれ……」

強い言葉で、私の言葉を遮った後、段々と語尾が消える様に小さくなっていくレイさん。
その瞳は、伏せていてよく見えないけれど、不安げに揺れているようにも見える。

私は。気持ちをどう言葉を伝えれば良いのか判らず、言葉が出てこないでいた。

 

「お別れは済んだ? それじゃあ……」

私とレイさんが、お互いに黙っていると、不意に、パワが言葉を挟んできた。

「やってしまいなさい」

パワがそう言った瞬間、彼女の後ろに控えていた取り巻きが、合わせる様に武器を構える。

「何をッ!?」
「あら、都市にもギルドにも未練がないのなら、何を困ることがあるの? 冒険者がひとり死んだくらい」

慌てて制止しようとするレイさんに、パワが不敵に笑いながら言う。
レイさんは、「だ……駄目だ、駄目だ……!」と、慌ててその言葉を否定する。

「その程度よ、レイ・アリアポー。あなたは牙も、狩人たる誇りもなくした。余計な情を持つ者を、アタシの団には入れられない」

パワは、そのレイさんの姿を見て、得心が行った様に、笑った。
どうやら、レイさんを試したみたい。

それに気が付いたレイさんが、悔しそうに拳を固めながら俯く。

「死にかけの獣を狩る趣味はないわ。見逃してあげるから、さっさと行きなさい」

そういうと、パワ達は、姿を消した。
動けないままのレイさんを、その場に残して。

 

「……さすらい人の冒険者は、何を信じて戦っている?」

2人の沈黙を破ったのは、レイさんの問いかけだった。

「なんで、アンタは強いんだ? 何がアンタをそうさせている? アンタは、その目で何を見ている?」

そして、矢継ぎ早に質問をしてくるレイさん。
私はなにも言葉を返すことが出来ず、ただ、彼女を見つめ返す事しか出来なかった。

「……教えてくれ……アンタの弓で。アタシはアンタと戦って、その答えを見つけて見せる。……もし、アンタと戦って、答えを見つけられなかったら……その時は、弓を捨てる」

そして、レイさんは救いを求める様に…そして、決意するように、そう呟いた。
最後に、バノック練兵所で待っていると、私に告げ、彼女は去って行ったのだった。

 

 

 

「来てくれてありがとう」

夜の帳が下り、すっかり夜闇包まれた練兵場で、レイさんは、腕を組んで待っていた。
篝火に照らされる彼女の表情は、暗くてよく判らない。

「レイさん! 止めようよ、こんなこと!」

彼女と戦いたくない私は、彼女に訴えかける。
しかし、彼女は、剣呑な雰囲気を纏ったまま、静かに首を横に振る。

「ダメだ。もう、こうするしか、私は先に進めないんだ…!! ……イーディス。準備はいいか? アンタの強さの意味、教えてくれ。手加減はなしだ!」

そう言い放つと、レイさんは弓を構え、矢を弦に宛がったと思った瞬間、私に向けて解き放った!

 

「来いっ、ハンティング・ファルコン!」

レイさんが叫ぶと同時に、何処からともなく猛禽が現れた。
どうやら、レイさんに訓練されているらしく、私が弓を撃とうとする度に、妨害してくる。

その間にも、レイさんは、文字通り、矢継ぎ早に矢を放ってくる。

「リペリンクショット!」

ともかく、この鳥を何とかしないと、まともに狙いが付けられない。
私は、逃げ撃ちをファルコンに撃ち込みながら、いったん距離をとる。

「やるな……でも、アタシだって!」

距離をとった私をみて、レイさんも負けじと距離を詰めながら、追撃をしてくる。
それを躱しながら、ヘヴィショット、ストレートショットを駆使しながら、ファルコンの体力を削っていく。

「キュゥ…ッ!」
「ファルコン!!」

やがて、飛べなくなるほど体力を失ったファルコンが、地に伏せる。
止めは刺していない。

「くっ……アタシとアンタ、何が違う?」

それを見て、レイさんが叫ぶように問いかけてくる。
その問いには答えず、ただ、矢を番えては撃ち込む私。

そこからは、お互いに、相手の矢を躱しては撃ち込み、撃ち込んでは躱しを繰り返していく。
偶に、躱せない矢に身を裂かれ、上がる息に足元を掬われながら、戦いは続いていった。

 

だけど、その戦いも決着が付くときがやってきた。
私が最後に放ったミザリーエンドが、疲れに足をとられたレイさんを捕らえたのだ。

「そうか、アンタの目は……!」

そう言いながら、レイさんは膝をついたのだった。

 

「はは……負けるわけだ」

暫くして、身を起こしたレイさんが、力なく呟いた。
そして、自嘲気味に笑いながら、言葉を続ける。

「アンタは、アタシが教えた以上のことを知ってる。シルヴェルから教わったこと、冒険で学んだこと。……わかったよ。アタシは見てなかったんだな。学ぶべきことが、たくさんあることを」

そこまで続けたところで、レイさんが、まっすぐに私の目を見つめてきた。

「自分の……故郷の弓術が正しいと盲信して、こんなにいい仲間がいて、教えてくれる…支えてくれる。ありがとう、イーディス。私は、私の居場所がようやく判ったよ」

そういうと、レイさんは、パッと吹っ切れたように笑顔を浮かべて、「さぁ、ギルドへ帰ろう!」と私に告げてきたのだった。

 

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