リトル・アラミゴから砂の家に戻った私は、再び、アシエンと思われる、仮面の男の目撃証言があったという事で、黒衣森、北部森林にあるフォールゴウトへと向かった。
そして、フォールゴウトでは、3人の採掘師から、仮面の男と、それが従えていたという目玉の化け物、そして、目撃現場に残されていたという、女性の死体の情報を得たのだった。
「……なるほど。人探しのために怪事件を調べていたところ、この死体を発見した、と」
フォールゴウト近くの岩陰で、目玉の化け物を見つけた私は、その近くに倒れていた女性の死体を発見した。
それは、顔がひどく傷つけられていて、まるで、身元が判らない様にされているかのようだった。
急ぎ、双蛇党の詰所に、死体の事を知らせたところ、近隣で、この手の死体が複数発見されているのだという。
「……ん? 白百合が彫られたボタン……前に発見された死体にも、同じ物がついていたな。珍しい装飾だったので、よく覚えている。何かの組織か、あるいは家紋か……?」
死体を調べていた衛士さんが、なにかに気が付いて、それを取り上げて見せてくれた。
それは、高級そうなボタンに、白百合の意匠が彫られたものだった。
「こいつは、お前に預ける。本来なら、事件の重要な証拠品として扱うべきだが、お前は近隣の魔物討伐にも一役買ってくれたからな。今回は特別だ」
そういって、衛士さんは、そのボタンを手渡してくれた。
「それに、お前さんが追っている仮面の男とやらが、この事件に関わっている事も明白そうだしな。事件を解決してくれることを期待しているぞ」
…なんか、都合よく押し付けられた感もあるけど…まぁ、いいか。やること変わらないしね。
「おや、イーディスじゃないか! 僕のハーブティーを飲みに来た……って様子じゃないね。どうかしたのかい?」
ボタンについての情報を得るため、グリダニアに戻った私は、カーラインカフェのミューヌさんを訪ねた。
残念ながら、ミューヌさんには心当たりは無かったようだけど、エーテライトで行き交う人を見ている衛士さんなら、知っているかも知れないとアドバイスをしてくれた。
そうして、ボタンを手に、グリダニア市内で情報収集を進めるうちに、ひとりの老執事さんに出会ったのだった。
「ああ……ああ……! 見間違うはずもございません! 気高き白百合の意匠は「ダルタンクール家」が掲げる印!」
グリダニアの旧市街、名士区の入り口で、途方に暮れる様に腰を下ろしていたその人は、ボタンを見るなり、感極まったように声を上げた。
ボタンに描かれた意匠を、家紋として掲げるダルタンクール家の使用人だったというその人、ウルサンデルさんは、そのボタンを手にしながら、ダルタンクール家を襲った悲劇を訥々と語ってくれた。
ダルタンクール家というのは、グリダニアでも名門と呼ばれる程の名家であり、その現当主、アマンディルさんは、美しく聡明な方として名士たちの間でも有名だったらしい。
しかし、第七霊災で顔に深い傷を負ってからというもの、そのお嬢様は、中央森林にある屋敷に、引き篭もるようになったのだそうだ。
そんななか、何処からともなく現れたのが、怪しげな仮面の男達だった。
彼らは、お嬢様の顔の傷を癒す方法があると持ち掛け、それに縋ったお嬢様は、その儀式に没頭するようになっていったそうだ。
しかし、その儀式は日を追うごとに残酷なものになってゆき、取り憑かれたようにお嬢様も変わっていったのだという。
使用人は戯れに責め苛まれ、美しいメイドたちは拷問の末、殺される。
そんな悪夢の様な日々のなか、ウルサンデルさんは、死体を運び出す命を受け、その足で逃げ出してきたのだという。
「その事を双蛇党には……?」
私が、そう問いかけると、ウルサンデルさんは苦しそうな顔を浮かべながら、首を振った。
グリダニアきっての名門と呼ばれる、名家で起きた不祥事を公にすることで引き起こる、様々な影響と、その罪の償いを恐れた彼は、どうすることも出来ず、ここで途方に暮れていたのだという。
「こんなことをお願いするのは筋違いかと存じますが、どうか、真実を暴いたその手で……どうか、どうか悲劇を終わらせてくださいませ!」
そういって、ウルサンデルさんは、縋る様に、私の手を握ってきた。
正直、双蛇党に任せた方が良いんじゃないかとも思ったんだけど、仮面の男達というのが、アシエンの可能性もあるし……。
少し逡巡したあと、私は、ウルサンデルさんに、頷いて応えたのだった。