
エオルゼアには、未だ見ぬ財宝が数多く眠っている。
それは、古代帝国時代以前からの遺物であったり、他人には無価値のガラクタであったり。
隠された財宝が、必ずしも価値のあるものとは限らないけれど、そこに浪漫を求める人は後を絶たない。
高地ラノシアで出会った、エルドワインという人も、そんな夢と浪漫を追い求める、トレジャーハンターさんだった。
「……あの。何をしているんですか?」
東ラノシアのエールポートから、高地ラノシアにある、キュンプ・ブロンズレイクへと向かう途中、柱の影から、なにかを覗き見ている、怪しい人を見かけた。
いつもだったら、この手の人には、関わり合いになろうとはしないんだけど、この日は、なんだか妙に気になってしまって、声を掛けてしまったのだ。
「ハッハッハ、よーいところに来た! 君のその目……感じる、感じるぞ!! トレジャーハンターになりたいんだろう!?」
「はい?」
「見てみろ、向こうの宝箱を! あれは、このトレジャーハンター「エルドワイン」が、秘密の知識と、素敵な技能で掘り起こしたのだ! どうだい、ビンビンと感じるだろう!? 歴史と、浪漫と、お宝の香りをよぉーっ!!」
声を掛けるなり、いきなり、よく判らない話を始めたその人は、茂みの方を指さしながら声を上げる。
見れば、確かに、古ぼけた感じの宝箱が、茂みに隠れる様にして置かれている。
とても、歴史と浪漫を感じられる様なものではなかったけれど。
「早く宝箱の中身とご対面したいところだが…… 宝箱を開ける権利は、新米トレジャーハンターの君にあげよう! あえて、新米に花を持たせるとは…… くぅぅっ、なんたる優しさ! ハンサムすぎる自分が憎いっ!! さぁ、早く行ってこい! 中身はやらんが、歴史に名を残すチャンスだぞ! 大丈夫だ! 魔物なんて、絶対に出ないから大丈夫だ!」
私が訝しがっている間にも、エルドワインと名乗った、その人の話はどんどん進んで行く。
「…あの。新米とか、トレジャーハンターとか、いったい、何の話をして」
「いいから! ほれ!! 早く開けてこい!!」
なんだか、もう、わけが判らない展開だったけれど、このまま無視して、置いて行ってしまうのも、なんか面倒な事になりそうな感じがするし、ここは、従った方が良いような気がした私は、その宝箱へと近づいたのだった。
エルドワインさんが言っていたように、掘り起こされたばかりと思われる宝箱は、そこかしこに土が付いて汚れていた。
軽く調べた感じ、鍵はかかっていないようで、簡単に開けられそうに見える。
…なんで、自分で開けないんだろう…。
そう思いながら、宝箱の蓋に手を掛けると、小さく、何かが割れるような音が聞こえた気がした。
「……? 気のせい…かしら……?」
そう思った瞬間、なにかが寄ってくる気配を感じた。
振り返れば、複数の魔物が、まっすぐにこちらへと向かって来ているのが見えた。
「!!? 周囲に、魔物の気配とか無かった筈なのに!!」
明らかに、敵意をもって寄ってくる魔物に、私は、距離をとりながら弓を射かけた。
だが、魔物は、矢が突き刺さっても、まったく怯むこともなく、まっすぐに突っ込んで来る。
「…なんか、様子がおかしい…? とはいえ、とはいえ、倒す以外に解決方法は無さそうだし…!!」
話の通じない魔物相手では、平和的に解決することも儘ならず、私は、なんとか、魔物たちを撃退することが出来たのだった。
「な、なんだとぉー。宝箱を開けたら、魔物に襲われただぁー? なんてこったい、そうとわかっていれば、私の自慢のピッケルが、魔物を鋭く仕留めたというのに」
なんか、すごく棒読みな感じなんだけど…。
「……宝箱の中には、この二つが入ってました」
私は、開けた宝箱に入っていた、壊れた小さな瓶と、ギルの入っているらしい小袋を、エルドワインさんに手渡した。
「なんだ、この薬瓶は……。そうか、わかったぞっ!! この薬瓶、宝箱をムリに開けると割れ、魔物を誘引する臭いを発する仕掛けだったのだ! つまり、ただの罠! 何の価値もないゴミだっ!!」
相変わらず、用意された台詞を読み上げるかのように、抑揚なく声を上げるエルドワインさん。
宝箱開けるときの小さな音は、罠が発動した音だったのね……エルドワインさん、知っているなら言ってくれれば良いのに……。
「……しかし、本命のお宝は小銭だったか。おっと、はした金とはいえ、もちろん君にはやらんぞ! お宝が欲しければ、自分で古ぼけた地図を見つけたまえ!」
「古ぼけた地図?」
なんだろう。宝の地図的なものだろうか。
「そうだ! エオルゼア各地には、古ぼけた地図が隠されている! しかし、それらは大抵の場合、暗号で記されており、君のような新米には、解読すらできないだろう!」
やっぱり宝の地図だった。
でも、暗号化されているのかー。
「だが……不覚にも、新米トレジャーハンターたる君に、罠のかかった宝箱を開けさせてしまった一件もある。詫びとして、トレジャーハントに必要な能力を授けよう!」
だから、新米トレジャーハンターでは……まぁ、いいか。教えてもらえるのであれば、誤解を解く必要もないよね。
「地図の暗号を解読する知識「ディサイファー」と、地図に記された場所で、お宝を探る技能「ディグ」について、これに記してある! このふたつを使いこなし、君もお宝を手に入れたまえ!」
そういって、エルドワインさんは、一冊の手帳を手渡してきた。
開いてみると、トレジャーハンターに関しての知識や説明が書かれている様だった。
「喜び、そして、むせび泣きたまえ! これで君も浪漫を求める夢追い人…… 「トレジャーハンター」になったのだからっ!!」
そう雄叫びをあげると、立ち去って行ったのだった。
……なんだか、肩を落としながら、「……うう、また小銭かぁ。帰ったら、母ちゃんに絞られるだろうなぁ」とか呟きながら、トボトボと。
宝の地図かー。
いずれ、どこかで手に入れることがあったら、探してみるのも良いかもしれない。
ちょっとだけ、楽しみね。