「リムサ・ロミンサの黒渦団から依頼が入ったわ……。落ち着いて聞いて。コボルト族が、蛮神タイタンを再召喚したらしいの」
ハウケタ御用邸での一件の後、事件の報告をする為に、砂の家に戻った私を待っていたのは、ミンフィリアさんの衝撃的な言葉だった。
最近、コボルト族の行動が活発化してきている事は知っていたけれど、まさか、蛮神召喚に至るほどだったなんて…。
暁のみんなも、その言葉を聞いて、一様に緊張した表情を浮かべている。
「黒渦団からの依頼の内容は、タイタンの討伐。彼らに同行して、作戦に協力することよ」
黒渦団からの依頼内容は、とてもシンプルだった。
そして、それ故に、とても難しい内容でもある。
「……黑渦団が設立される数年前。蛮神リヴァイアサンと、蛮神タイタンが、同時期に召喚されたことがあったわ。この時、メルウィブ提督は、海雄旅団という傭兵団を雇って送り込み、討伐を成功させた」
ヤ・シュトラさんが、険しい表情で話し始めた。
「それ以来、黒渦団は蛮族の監視を……特に、近年、行動が活発化しているコボルト族を監視していた。そして、彼らが再召喚を行った事実を掴んだという事ね」
「悪いことに、蛮神イフリートの時と違って、蛮神タイタンの討伐の記録は、先の第七霊災で失われてしまっているの。海雄旅団も5年前に解散してしまって、その団員の行方は把握できていない…。つまり、戦闘記録も、その知識を持つ人も居ないという事」
ヤ・シュトラさんの言葉に続けて、ミンフィリアさんが、現状の厳しさを付け加える。
「……激戦になる」
ヤ・シュトラさんの呟きに、ここにいる全員が、息をのむのだった。
「あっ……もしかして、連絡があった「暁」のヒトかな? キミが来るの、待ってたんだよ!」
早速、リムサ・ロミンサへと向かった私は、黒渦団のル・アシャ大甲佐に、話を聞くことにした。
ル・アシャさんの話では、コボルト達は、タイタンを再召喚した後、それを維持するために、大量のクリスタルを採掘しているのだという。
「そこから先は、私が説明しよう」
そういって現れたのは、メルヴィブ提督だった。
提督の隣には、いつの間にか姿を消していた、ヤ・シュトラさんの姿もあった。
「蛮神討伐の依頼なんて、一大事だもの。メルウィブ提督に、直接、お話を伺ったほうがいいと思ったの」
しれっと、一国の代表を引っ張り出してくる、ヤ・シュトラさんの強かさに、目を丸くしてしまう。
「周知のとおり、このリムサ・ロミンサは、海にサハギン族、大地にコボルド族……。さらには、国内に海賊問題を抱えている。なさけない話だが、第七霊災後、我らは、それらの対応に追われるだけで精一杯の状態でな。蛮神への切り札だった海雄旅団も失ってしまっている事もあり、今回、君たち「暁の血盟」に、蛮神タイタンの討伐を依頼したというわけだ」
「でも、海の恵みは人のもの、大地の恵みはコボルド族のものとして、彼らとは以前、協定を結んでいたはず。その協定を破って、大地を侵略しているのは人のほうよ。おそらくコボルド族は、それに対抗するために、蛮神タイタンを呼んだに過ぎない。……その尻拭いをしてくれだなんて、少し身勝手ではないかしら」
ちょ……!?
メルヴィブ提督の説明に、ヤ・シュトラさんが驚くような内容で言葉を返す。
一瞬流れる、剣呑な空気に、嫌な汗を背中に感じてしまう。
「ヤ・シュトラ殿!? その言いようは、ちょっと非道いんじゃないかッ!?」
ル・アシャさんが、尻尾をピーンと立ち上げながら、ヤ・シュトラさんに抗議する。
「……よい。ヤ・シュトラ殿の言うとおりだ。しかし、それでも、リムサ・ロミンサを安定させ、国や⺠を護らねばならんのだ。……わかってくれ」
不敬罪で逮捕されてもおかしくない物言いにあったというのに、メルヴィブ提督は、怒るでもなく、やんわりと、ヤ・シュトラさんの言葉に応える。
「失礼……少々、口が過ぎたようだわ。提督の苦悩は理解できているつもりよ」
メルヴィブ提督の対応に、流石にバツが悪くなったのか、ヤ・シュトラさんも頭を下げつつ、メルヴィブ提督の言葉に応えたのだった。
バツが悪くなるぐらいなら言わなければ良いのに……なんか、ヤ・シュトラさんは、理は立つけれど、情を軽く見ているところがある気がするなぁ…。
そんなことを、こっそりと、心の中で思う私なのだった。
「すでに蛮神タイタンによってエーテルが喰われ始め、内陸部に影響が出始めている。早々に、リムサ・ロミンサ都市部へも被害が出るだろう。我侭を言っているのは重々承知している。どうか、リムサ・ロミンサを助けてほしい」
そういって、私達に、改めて頭を下げると、メルヴィブ提督は、実務に戻って行かれたのだった。
「まずは、情報を集めないと。討伐実績のある海雄旅団の団員を探してみましょう。解散したとはいえ、生存している団員もいるはずよ」
メルヴィブ提督を見送った後、今後の行動方針を、ヤ・シュトラさんと相談することにした。
やはり、タイタンの討伐のためには、生きた情報が一番なだけれども、問題は、その情報を持つ人が行方知れずになってるという事。
「んー、解散後の彼らについて確かな情報はないんだけど。たしか……グレイフリート風車群に、元海雄旅団員だー、って人がいるって報告があったなぁ」
私とヤ・シュトラさんの相談内容を聞いて、ル・アシャさんが首を捻りながら、思い出すように呟いた。
とりあえず、私達は、そのグレイフリート風車群へと向かってみる事にしたのだった。