「さあ宴だ! 踊り子たちの準備はいいな? 久方ぶりの、蛮神タイタン討伐を送り出す宴だ!!」
ヴェイスケートさんの言葉で、私達を送り出す宴が始まった。
コスタ・デル・ソルの輝く太陽の下、ゲゲルジュさんお抱えの、美しい踊り子さんが場を華やかせ、飾られた美しい花々が、さらに場を彩る。
青い空と碧い海を望める食卓には、ディルストヴェイツさんの調理した、料理の数々が並んでいた。
「さあ、お前のおかげで用意できた特別な晩餐だ! 存分に味わってくれよ!」
席に着いた私に、ディルストヴェイツさんが、そう言って、料理を楽しむように促してきた。
「それじゃ…いただきます!」
私はそういうと、目の前にある豪華な料理に、手を伸ばしたのだった。
「まずは、前菜から…」
前菜は、アダマンタスの大卵を使った、季節の野菜の包み焼だった。
その濃厚な卵の味は、鶏卵とは比べ物にならないほど、ずっしりと重いものだったけれど、それを新鮮な野菜の甘みと爽やかさが軽くしてくれている。
添えられたソースを付けて食べると、さらに別の風味も楽しめて、全然飽きが来ない感じだった。
次に手を伸ばしたのは、ゴブリンチーズのニョッキだった。
ハーブを混ぜたチーズソースは、その独特の臭みを和らげていて、コクだけを上手に残している。
ふわっと茹で上げられたニョッキに、そのチーズソースを絡めると、より、その旨味が引き立てられている様だった。
「……」
私は、チラリとバッカスの酒に目を向けた。
お酒か…飲んだことないけれど…折角だし…。
ちびり。
「!!」
初めて口にしたお酒の味は、今までに感じたことの無い衝撃を、体に走らせた。
上手く表現できないのだけど、ブドウの芳醇な香りが鼻腔を擽りながら、柔らかい舌ざわりのワインが喉に落ちていく。
ブドウの甘みを強く残したその味は、気持ちをも蕩けさせる様な感じがして、僅かに残る渋みが、また次の一口を求めさせる様だった。
「美味しい!!」
私がお酒を飲んだなんて知ったら、お父さんどんな顔するかな……そんな事を想いながら、私はその味を楽しんだのだった。
そして、メインディッシュ、ラムトンウォームの燻製肉のステーキに手を伸ばす。
その肉質はとても柔らかく、噛みしめるたびに溢れ出る肉汁は、甘みを感じるほどに濃厚だった。
アルドゴートやバッファローの肉の様に、筋張った個所はまるでなく、あっという間に溶けて消える様に無くなっていく。
すっかりその味に魅了された私は、夢中で、それを口に運び続けたのだった。
「ふぅ…お腹いっぱい…」
三大珍味と、最高のワインを楽しんだ私は、いっぱいになったお腹に手を宛てながら、満たされた充実感に身を委ねていた。
「楽しめたかしら?」
腹ごなしに、コスタ・デル・ソルのデッキを散歩していると、ヤ・シュトラさんが声をかけて来た。
ほんのりと頬に赤みがさしている気がするのは、バッカスの酒によるものだろうか。
「まったく、ヴェイスケートたちも人が悪いわ。でもこれで、タイタンに挑む方法を聞けそうね」
「もちろん、五傑衆が承認を出したんだ、約束どおり、蛮神タイタンのもとへ行く方法を教えよう」
ヤ・シュトラさんの言葉に続くように、ヴェイスケートさんが言葉をかけながら姿を現した。
「蛮神タイタンのいる、オ・ゴモロ山の火口に乗り込むには、「ある物」を探さなきゃいけねぇ。だが安心しな、俺の元部下が調査にあたっている」
そういって、ヴェイスケートさんは、高地ラノシアにある、キャンプ・ブロンズレイクへと向かうように指示してきた。
そこで、リオルさんという人が、待っているらしい。
私達は、ヴェイスケートさん達にお礼を告げると、ブロンズレイクへと向かったのだった。