「……おつかれさま。そろそろ合流した方がいいと思ってね。頑張ってくれたあなたに、感謝しないとね」
コスタ・デル・ソルに戻ると、暫く別行動をしていた、ヤ・シュトラさんが居た。
どうやら、私が戻ってくるのを待っていてくれたみたい。
「よう、帰ってきたか。最高のワインは、手に入ったのか?」
そこへ、ヴェイスケートさんが声をかけてきた。
私は、カバンからバッカスの酒を取り出すと、ヴェイスケートさんに手渡したのだった。
「……こいつはバッカスの酒か!? とんだお宝を手に入れたもんだ!」
そのワインのラベルを見るなり、驚愕の声を上げるヴェイスケートさん。
その様子を見るに、充分、期待に応えられるものを用意できたみたいで、私は、ほっと胸をなで下ろすことが出来たのだった。
その後、最後の仕上げと、調理担当のディルストヴェイツを手伝って、晩餐の準備を整えた。
特別な晩餐の準備が、全て整ったことを確認すると、ヴェイスケートさんは、近くに来ている、「美人の女学者」さんに声をかけてこいと、私に告げた。
美人の女学者さん……あれ? もしかして……。
「ええ、お探しの女学者は私よ。あなたもひどい目に遭ったわね……何がって、この宴の準備よ! この宴で、歓待されるべき主役なのだというのに、準備をいちから手伝わされていたの」
え? え?
「ひぇぇぇ!! どうか許してほしいんじゃよ〜〜! すすす、すみませんっしたぁぁぁぁぁ!! せっせと働いてたもんじゃから、新しい使用人かとぉぉ! このとおりじゃぁぁ!」
その時、遠くから声が聞こえたかと思うと、一人のララフェル族が、走りこんできたかと思うと、その勢いのまま、土下座しながら、滑り込んできた。
見れば、このコスタ・デル・ソルの地主さんである、ゲゲルジュさんだった。
つまり、特別な晩餐は、私とヤ・シュトラさんのための宴で、その準備を、自ら手伝わされていた…という事みたい。
あれ? 海雄旅団の試練なんじゃなかったの?
「何とぼけたツラしてやがる。主役がそれじゃ、宴も盛り上がらんだろう」
その時、ヴェイスケートさんが声をかけてきた。
振り向けば、そこにはランドゥネルさん、ウさん、ブレイフロクスさん、シャマニさんの姿も見える。
「招待状をありがとう、海雄旅団の元副団⻑さん……でも、盛り上がれというならば、まずは本人への説明が先ではないかしら?」
ヴェイスケートさんの言葉に、ヤ・シュトラさんが、言葉を返す。
「そうだな、お前には説明しておかねばなるまい」
そういって、ヴェイスケートさんは、今回の事についての説明を始めた。
かつて、海雄旅団には、一つの取り決めがあったという。
それは、仲間の命を悪戯に犠牲にしないための鉄の掟。
団長が選出した、5人の団員。
すなわち、五傑衆の承認なく、蛮神に挑むことは許されないというものだった。
今回も、その、鉄の掟に従って、「度胸」「技」「機転」「心」そして、「力」を、ヴェイスケートさんさん達、5人で、宴の準備という名目で、試練を課しながら見極めたという事だった。
「それで、結果はどうだったのかしら?」
ヴェイスケートさんの説明を聞いていたヤ・シュトラさんが、突っ込みを入れてくる。
その言葉を聞いて、ヴェイスケートさんを始め、五傑衆のみんながニヤリと笑みを浮かべる。
「当然、合格だ。すべての試練をこなしたんだからな」
そして、改めて、全員が、私に向き直る。
「イーディス。海雄旅団は、お前のタイタン討伐に全面的に協力しよう。俺たちの英雄譚を、お前に託す」
その言葉に、私は、胸を熱くするのだった。