リムサ・ロミンサで、ル・アシャさんにタイタン討伐の報告を終えた後、私は、砂の家に戻って来た。
そして、砂の家の前まで来たとき、街の人達が、中の様子を伺うように立っているのが見えた。
「あの……どうかしたんですか?」
その人達のなかの一人に、私は声をかけた。
「アンタ、この建物に用事があるのか? だったら丁度いい、中の様子を見てきてくれよ。物騒な音がしたきり、急に静かになっちまったんだ……」
「悲鳴も聞こえたんだけど……いったい、何があったのかしら……」
隣の人も、不安げな表情で訴えてくる。
「はぁ…」
私は、彼らに生返事を返すと、入り口の扉を開けて、中に入ったのだった。
「あれ。タタルさんが居ない? 中かな?」
無事に帰って来た挨拶を、タタルさんにしようと思っていたのだけど、入り口の受付に居るはずの、タタルさんの姿は無かった。
たまに、彼女が、砂の家の中で雑務を行っていたことを思い出した私は、あまりその事を気にせず、地下にある、暁の血盟本部へと降りて行ったのだった。
扉を開けた瞬間の違和感は、今も、忘れられない。
明かりが消え、薄暗い闇に包まれた本部は、静寂に包まれていた。
それは、ただ静かなだけではない、なにか、ドロリとした、生理的な嫌悪感を沸き立たせるような静寂だった。
誰も居ないのかしら…?
私は、入り口から入り込む光で、僅かに照らされる室内を、恐る恐る進んで行った。
ふと、その時、足元に何かが落ちているのに気が付いた。
それは、鈍く光を反射する、一振りの剣だった。
なんで、こんなところに…。
その剣を拾おうと手を伸ばした時、それに、私は気が付いてしまった。
暁の、みんなの変わり果てた姿が、そこにあった。
暗闇に目が慣れてくるにしたがって、徐々に、その惨状が見えて来た。
クライブさん。
ハリベルトさん。
ウナ・タユーンさん。
ペルスパンさん。
サッツフローさん。
リアヴィヌさん。
オリさん。
ア・アバ・ティアさん。
他にも名前を聞く機会の無かった、クライブさんと共にいた女性や、不滅隊の人、ララフェル族の人…。
みんな、激しい戦闘の後を残しつつ、事切れていた。
ほんの少し前。
タイタン討伐に出発する直前に、みんなに応援され、励まされ、心配され、言葉を交わしたばかりなのに。
まだ、みんなの声が、笑い声が、耳朶に残っている。
まだ、希望に燃える瞳が、顔が、脳裏に残っている。
……なんで……どうして……。
カタン
その時、小さな物音が、ミンフィリアさんの執務室から聞こえた気がした。
私は、誰かが生き残っているかも知れないという希望と、犯人が潜んでいるかも知れないという警戒を胸に、その扉に手をかけたのだった。
「ノラクシアちゃん!!」
ミンフィリアさんの執務室には、シルフ族のノラクシアちゃんが倒れていた。
まだ、意識がある事に気が付いた私は、慌てて駆け寄ると、その名を呼んだのだった。
「無事で……よかったので……ふっち……」
そして、返事をするノラクシアちゃんの手を握った瞬間、超える力が発動した。
それは、突然の襲撃だった。
私が、リムサ・ロミンサで、タイタン討伐の報告を行った直後、突如現れた、ガレマール帝国の一団に、砂の家は大混乱に陥っていた。
多勢に無勢な上に、完全なる不意打ちで、手練れであるはずのみんなが、次々に討ち取られていく。
そんな中、彼らは、私を出せと要求していた。
どうやら、イフリートを倒した事だけではなく、タイタンを討伐したことも知っている様だった。
ミンフィリアさんは、犠牲を増やさない為に降伏を選択していた。
そして、ガレマール帝国の将校と思われる人に、生き残っていた人達と共に、連れ去られてしまった。
ノラクシアちゃんの傷は、その時に、身を挺して、ミンフィリアさんを守ろうとして、負わされてしまったものだった。
「ミンフィ……頼まれ……伝えること……あるので……ふっち……」
過去視から意識を取り戻した私は、ノラクシアちゃんが、最後の力を振り絞って、なにかを伝えようとしている事に気が付いた。
私は、一言一句を聞き逃さない為に、その口元へ顔を近づけて、耳を澄ましたのだった。
「東ザナラーンの……聖アダマ・ランダマ教会へ……身を隠して……っち………ごめんでふっち……ミンフィを……みんなを……守れなかったのでふっち……」
私は、徐々に声が小さくなっていくノラクシアちゃんの手を取り、そんな事はないと頭を振り続けた。
「せっかく……みんなと……仲間に……みんなを……助け……て……」
そこまで、言葉を紡いだ瞬間、私が握る手から、力がふっと抜けるのを感じた。
「……ノラクシアちゃん……」
私は、二度と握り返してこない、ノラクシアちゃんの手を、強く、強く握りしめたのだった。
「みんな……ノラクシアちゃん……ごめんなさい……」
私は、砂の家を出ると、静寂に包まれた扉を振り返りながら、謝罪の言葉を呟いた。
みんなの亡骸を、そのままにしていくのは、本当に悔しかったけれど、また、帝国兵が何時やってくるかもわからない状況で、この場に居続ける事は出来なかった。
ノラクシアちゃんの最後の願いを叶えるためにも、私自身の希望を叶えるためにも、今は、身を隠して、機会を伺うしかない。
必ず、弔いに戻ります。
私は、そう、固く心に近いを立て、夜闇の中を走り出したのだった。