「こんな夜分に、どうかなさいましたか? このように寂れた教会ですが、お力になれることがあれば伺いましょう」
私は、ノラクシアちゃんの残した言葉通り、キャンプ・ドライボーンの近くにある教会へとやって来た。
既に深夜になろうかという時間にもかかわらず、不審な表情ひとつ見せない神父さまが、私を受け入れてくれたのだった。
…そういえば、ノラクシアちゃんから伝えられたのは、この教会に向かえという事だけだった事に気が付いた。
一応、暁の血盟は秘密組織って事になっているし、無関係の人に、事情を説明するのは避けた方が良い気がする。
どうしたものかと、頭を悩ませていた時、私は、ある言葉を思い出した。
「……のばら」
私は、暁の血盟の合言葉を、神父さんに聞こえる様に呟いた。
「のばら…ですと…? その合言葉を知っているとは、貴女は一体…」
私の言葉に、神父さまは、驚きの表情を浮かべたのだった。
神父さまは、暁の血盟の一員だった。
私は、砂の家で起きた事を、ミンフィリアさんが攫われた事を、多くの仲間が命を落とした事を。
ともすれば、荒ぶりそうな感情を、必死に抑えながら、私は、神父さまに説明したのだった。
神父さまは、私の言葉をひとつひとつ、ゆっくりと、そしてしっかりと聞いてくれた。
「まさか、そんなことが……おお、神よ……どうか皆をお護りください……」
そして、話を聞き終わった後、神父さまは、後ろにあった祭壇に向き直ると、ザル神に、犠牲になった人達の魂の安寧と、攫われた人達の無事を祈ってくれたのだった。
「あなたも、大変な想いをされましたな……少し休まれなさい」
そういう神父さまの言葉に甘えて、私は、教会で休ませて頂くことにしたのだった。
翌朝、私は、これからどうするべきか思案していた。
過去視で見た限り、ミンフィリアさん達を連れ去ったのは、ガレマール帝国の将校の様だった。
たぶん、どこかの帝国監視哨に囚われているのではないかと思うのだけど、私じゃ、その調査は難しい。
こういう時、ウリエンジェさんが居れば、きっと調べてくれるんだろうけど、そのウリエンジェさんも攫われてしまっている状況だし。
グランドカンパニーを頼ろうにも、どうすれば良いか判らない。
「うーん…」
私は八方塞がりな状況に頭を抱えるのだった。
「……調子はどうだ?」
その時、マケルズさんが声をかけて来た。
マケルズさんは、私がここに滞在する間、なにかあれば相談すると良いと、神父さまに紹介された人だ。
なんでも、第七霊災で記憶を無くしているらしく、マケルズという名前も、本当の名前ではないそうだ。
「あ、はい。寝たら、すこし元気がでました」
「…そうか」
無口だけど優しい人だと、神父さまは言っていたけど、多くの答えを求めてこない気配りは、今の私には、正直嬉しかった。
「……なぁ、これを見てくれ。こいつは時計、しかも持ち運べる「懐中時計」ってやつだ」
そういって、マケルズさんは、円盤状の小物を懐から取り出した。
なんでも、ドライボーンに収容した遺体がもっていたらしく、埋葬する前に、直してあげたいのだという。
正直、それどころではない状況ではあったけれど、どうにもならない状況でもあるのは確かだし、多分、煮詰まりつつある私を見て、声をかけて来てくれたのだろうと思った私は、マケルズさんの相談に乗ることにしたのだった。