「フォルトゥーナ少牙士、お待ちしていました! 双蛇党の同志であり、活躍めざましいあなたに、ぜひ耳に入れておきたいことがあるのです」
そう言って、双蛇党の人事担当官さんが、身を乗り出すようにして声を掛けて来たのが、最初だった。
詳しい話を聞いてみると、どうやら、グランドカンパニーの対冒険者施策の一環で、冒険者小隊というのが新設されるらしい。
現在も、各国のグランドカンパニーは、冒険者の取り込みを重要視した施策を打ち出しているけれど、なかなか、優秀な人材が現れることは少ない。
それならば、優秀な冒険者の下に部下となる冒険者を付けて、育成させて見てはどうかというのが、冒険小隊の発足理由らしい。
「部下たちの訓練と指揮は、責任ある役割なのですが、それだけに、さらなる昇進のチャンスでもあります。この話、受けるつもりはありませんか?」
部下を育てるなんて、まだまだ未熟な私にはおこがましい事この上ないのだけれど、それでも、私の経験と知識が、なにかの役に立つかも知れない。
そう思った私は、人事担当官の方に、この話を引き受けることを承諾したのだった。
「お初にお目に掛かります、イーディス小隊長殿! 小官が小隊長殿の補佐を担当させていただく、小隊付牙軍曹であります!」
双蛇党本部の奥に用意された、冒険者小隊の兵舎へと入った私に、双蛇党の軍曹さんが待ち構えていた様に声を掛けて来た。
どうやら、冒険稼業で彼方此方に出向いてしまう私の代わりに、事務的な事は、この軍曹さんが引き受けてくれるらしい。
……なんか、私なんかよりも、よっぽど人生の経験を積んでいそうなオーラを纏っているのだけど……私が補佐にまわった方が良いんじゃないかしら……。
そんな事を考えながら兵舎を見回すと、既に3人の隊員が、思い思いに過ごしているのが見えた。
私は、挨拶がてら、彼らに声を掛けて回ることにしたのだった。
彼の名前は、ハスタルーヤ。
斧術士である彼は、低地ラノシアにある農村、レッドルースター農場からやって来たという。
危険を顧みずに冒険を重ねる私の姿を見て、冒険小隊に志願してきたという事だけど……タンク職である彼が、この小隊の要になる事は間違いないと思うので、是非、頑張ってほしいと思う。
弓術士であるナナソミ。
ウルダハのルビーロード国際市場で、私の姿を見かけた後、私が、各地でグランドカンパニーの為に献身的に働く様子に、感銘を受けたという事らしい。
彼には、弓術士として、戦況の判断などを一歩引いた視点で見る様にしてほしいと思う。
そして、紅一点であり、小隊の生命線を預かる幻術士である、セシリー。
グリダニアのラベンダーベットからやって来たという彼女は、私の強さを追求し続ける荒々しさに魅力を感じた……という話なのだけど、私、そんなに強さを求めていたかしら……。
彼女自身も、強さを求めているらしく、とても強い目力を持っているのだけど、その気負いが空回りしなければ良いのだけど。
「現在、我が小隊には、3名の隊員がいますが、小隊として行動するには、4人の隊員が必要となります」
全員と顔通しを済ませた私に、軍曹さんが改めて声を掛けて来た。
どうやら、冒険小隊として活動するためには、もう一人、隊員を集めないといけないらしい。
一応、双蛇党でもスカウトは随時行っているみたいだけれども、3人がそうであった様に、私の行動を見て志願してくる隊員を招き入れたいと考えているみたい。
そんな訳で、この冒険者小隊は、まだ、結成しただけの状態らしい。
私が頑張らないと、この兵舎も、ここに居る4人の時間も、みんな無駄になってしまうのか……ちょっと責任重大かも。
とはいえ、具体的に何をすれば良いというものでも無いみたいだから、出来ることをやるしかないのだけどね。
とりあえず、3人には、自己鍛錬でもしていてもらう事にして、私は、兵舎を後にしたのだった。