グリダニアから飛び立って、暫くした頃。
シドさんは、操舵輪を握りながら、感慨深げにしている様だった。
そして、いつも付けているゴーグルを外すと、それを見つめていた。
「ッ!?」
その時、なにか痛みを感じたかのように顔を顰めたシドさんは、おもむろに私の方を見て来た。
「……そうだ……俺は、かつてこの船で……エンタープライズで……大空を駆けていた。お前たちのような、勇敢な冒険者を乗せて……」
シドさん、記憶が…?
そう思ったのも束の間、さらに何か痛みを感じる様に頭を抱えるシドさん。
私は、その様子に手を差し伸べようとしたところで、再び、過去視の感覚がやって来た。
やがて、私の意識は、シドさんの記憶の中へと飛んでいったのだった。
それは、今までの様な、過去にあった出来事を見るものとは違い、シドさんの失われた記憶をなぞる様なものだった。
ガレマール帝国で生まれたシドさんが目指したもの。
失ったもの。
そして、決意したものを、シドさんが思い出す様子を見ることが出来た。
ただ、その中で、とても不思議な現象が起きた。
シドさんの過去の記憶の中に、私が姿を現し、彼にゴーグルを手渡したのだ。
確か、ミンフィリアさんが言うには、過去視はみる事が出来るだけで、そこに何かしらの影響を与えることは出来ないと言っていたはず。
だけど、明らかに過去視の中の私は、シドさんにゴーグルを与え、エオルゼアに渡って来たシドさんの決意に影響を及ぼしていた。
これが、一体なにを意味するのか、私には判らなかったけれど、もしかしたら、ミンフィリアさんの知っている越える力と、私の超える力は違うものなのかもしれない。
やがて過去視から意識を取り戻すと、シドさんが私の事を見つめているのに気が付いた。
「忘れていたぜ。この風を……この空を……さっき感じた光……あれは、お前なんだろ。ありがとよ」
そう言って、シドさんは私に笑いかけてくる。
その言葉に、私は、やっぱり、いつもの過去視とは違う事を確信した。
「生粋の帝国人……ガレアン族はな、額に第三の眼なんてのを持ってんだ。そのためかね。なんとなくわかるんだよ、感覚的にだけどな」
もしかしたら、ガレアン族であるシドさんが相手だったからの、例外的な過去視だったのかもしれない。
詳しい事は解らないけれど、ウリエンジェさん辺りが聞いたら、興味深げにしそうだな、なんて事を思ったのだった。
「このエンタープライズは、お前たちのような英雄を、戦場に送るための船だ! 俺は、この船の主であることを、この船で飛べることを誇りに思うぜ!」
そう、宣言するように声を上げるシドさん。
「シド……? まさか記憶が!?」
その声に、アルフィノくんが驚きの声を上げる。
シドさんは、面倒をかけたと、彼に頭を下げた後、改めて操舵輪を握りなおした。
「俺の名は、シド! ガーロンド・アイアンワークスの代表、シド・ガーロンドだ! 行くぜ! 蛮神ガルーダをぶっ飛ばしによ!」
そう言って、一気にエンタープライズの出力を上げるシドさん。
エンタープライズも、本当の自分の主人が帰ってきたことを喜ぶように、青燐機関の唸りを高らかに響かせたのだった。