ネロに逃げられた私達は、更に地下へと降りるリフトの上にいた。
通信が回復したシドさんの話によれば、さっきの消灯は、アルテマウェポンに火を入れるために、一時的に要塞内の全出力を回したからだろうとの事だった。
どうやら、もう、時間の猶予はあまり無いみたい。
『その先に……アルテマウェポンの……チャンバーが……あるはずだ……』
魔導城の最深部へと降りて行く私達に、途切れ途切れにシドさんからの通信が届く。
その通信状態は悪くなっていく一方で、どんどん聞き取り辛くなっていく。
『……死ぬ……なよ……生きて……帰って……くるんだ……だいぶ……ノイズが多く……なって……そろそろ……通信が……途切れ……』
そして、とうとう、シドさんとの通信が途切れた。
ここから先は、私達だけで進んで行くしかない。
「問おう……うぬは、何のために闘う?」
その時、突如、私達の背後に何者かが降り立った。
「問おう……うぬは、何のために闘う?」
慌てて振り返った私達に、その男、ガイウス・ヴァン・バエサルは、同じ言葉で問いかけて来た。
シドさんは、ガイウスの行方が判らないから注意しろとは言っていたけれど、まさか、向こうから姿を現すとは思わなかった。
「……そうするべきだと思うから。そうすることで、自分自身の、親しい人達の笑顔を守る事が出来ると思うからです」
私は、油断なく身構えながら、ガイウスの問いに答えた。
「ならば、聞こう……このエオルゼアに、真実はあるのか?」
私の答えには応えず、ガイウスは更に質問を重ねて来た。
しかし、その質問の意図を図りかねた私は、その問いには答えなかった。
「虚偽で塗り固められた共存。欺騙によって造られた街。瞞着するために語られる神。欺瞞に満ちたエオルゼアに、真実はあるのか」
押し黙る私の態度をどう受け取ったのかは判らないけれど、ガイウスは、独白する様に言葉を重ねて来た。
「蛮神の出現に人は恐れ慄き、恐怖を拭うために人が戦う……おかしいとは思わぬか」
頭を振りながら、嘆く様に言葉を紡ぐガイウス。
「この地を護るというエオルゼア十二神。己の守護神と仰ぐなら、ふたたび呼び降ろすがいい。あのカルテノーの時のように。そして、神を呼ぶ代償として、クリスタルを喰わせ、エーテルを吸わせればいい! うぬ等は気づいているはずだ。十二神もまた、蛮神に過ぎない……と。その力に頼れば、地は滅ぶ……と」
私はカルテノーの戦いを経験していないので、詳細は知らない。
だけど、当時の事を聞く限り、確かに十二神の神降ろしは、蛮神召喚と変わらない事だったのかも知れない。
そう考えるからこそ、ガイウスは、アルテマウェポンという蛮神ではない力を、行使しようとしているのだろう。
「この真実を知ってもなお、愚かな⺠が、偽りの神に縋るのは何故か。賢人ルイゾワまでもが、神に縋ったのは何故か。⻑が、王が、為政者が、力無き弱者だからに他ならん!」
そう言って、突き出した拳を、力強く握り固めるガイウス。
その皮手袋から、ギチギチと革が撓る音が聞こえてくる。
「人の世は、人によって支配されてこそ、初めて存在価値がある。人は太古より、他者との争いで自己を鍛え、奪うことで富み、支配することで栄えてきた。つまり、争いの果てに、強者が弱者を導く先にこそ、未来があるのだ!」
その言葉を聞いて、私は確信した。
結局は、ガイウスも、ただ力を求め、それに溺れる者なのだと。
安易な道を選び、いずれ、その力を超える力を求め、それに対抗しようとする力に潰され、そして、さらなる力を求め続ける修羅の道を求める者なのだと。
「力無き弱者が⺠を導くゆえに、偽りの神が呼ばれ、地は枯れ、命は死に絶える。ならば、力有る者が支配すればよい。欺瞞に満ちたこの地で、愚かな⺠を救うための真実は、この一点のみに他ならない」
そういって、ガイウスは背中の剣を抜き放ち、頭上に掲げた。
そして、振り払うに剣を振りぬくと同時に、彼の漆黒の鎧が、黄金色に輝き始めた。
「英雄と呼ばれる貴様たちを倒し、我が力を天下に示そうぞ! エオルゼアの真なる王としての力を! そして、エオルゼアは新生するのだ! 力有る我が手によって!」
そう言って、ガイウスは悠然と歩きながら、私達に戦いを挑んできたのだった。