アシエン・ラハブレアを退ける事が出来た私は、幻視の世界から、現実の世界へと戻ってきていた。
側には、闇のクリスタルが砕け散り、ラハブレアの支配から解放されたサンクレッドさんの姿もある。
「さて。どうしよう」
私は、周囲の惨状を見上げながら、ひとり、呟いた。
究極魔法アルテマによってもたらされた爪痕は、周囲を瓦礫の山と化し、そこかしこで爆発を引き起こし、炎の壁を生み出していた。
徒歩で脱出することは勿論、エンタープライズで上空から救出してもらう事も難しそうな状況を見て、私は、先にテレポで脱出するようにみんなに伝え、見送ったところだった。
私も、みんなと同じように、テレポで脱出出来れば問題なかったのだけど、意識を失っているサンクレッドさんはテレポを使えないので、この場に残らざるを得なかったのだ。
「……やっぱり通じない……」
とりあえず、連絡だけでもとリンクパールを操作したけれど、アルテマの影響か、それともこの爆発の影響かは判らないけれど、何処にも通信は届いていない様だった。
「……?」
その時、なにかが走ってくるような音が、爆発音に紛れて、近づいてきている気がした。
そして、その音がハッキリと聞こえるぐらい近づいた時、炎の壁を飛び越えて、何かが私の前へと飛び降りて来たのだった。
「!!」
それは、途中で壊れ、動かなくなってしまった筈の魔導アーマーだった。
どうやら、乗り捨てた場所から、ここまで走ってきてくれたらしい。
一縷の希望を見出した私は、魔導アーマーにサンクレッドさんを乗せると、脱出口を目指して走り始めたのだった。
ドドンッ!!
私は魔導アーマーを全力で動かしながら、狭い通路を走り抜けていた。
通り過ぎた直後に起きた爆発の熱を背中に感じながらも、振り向くことなく進んで行く。
しかし、炎の足も速く、徐々に私達は炎に追いつかれていったのだった。
『聞いて……感じて……考えて……』
その時、再びハイデリンの声が聞こえて来た。
そして、気が付くと、私はハイデリンの前に居たのだった。
『……クリスタルに導かれし光の戦士よ。あなたの心の輝きにより闇は払われました……ですが、この星に根付く闇は……すべて失われたわけではありません……深淵に潜む……闇の神……かの者を消し去らない限り、世界から闇が消えることはないでしょう』
闇との戦いは、まだ終わりではないと告げるハイデリンの言葉に、私は息を飲んだ。
だけど、同時に、光の意志はエオルゼアに息吹き、育っていくだろうとハイデリンは言う。
『あなたに感謝と祝福を……光の戦士よ……』
そこまで聞いて、私は、ハイデリンの異変に気が付いた。
いつもは穏やかながらも、強い意志を感じる声に、力を感じないばかりか、徐々にそれが遠くなっていっている様だった。
そして、それを証明するように、ハイデリン自身の姿も、急速に遠ざかっていく。
『次は……あなたが導くのです……エオルゼアを、この世界を!』
行ってしまうハイデリンに、手を伸ばしかけた私は、やがて、その手を下に降ろした。
もしかしたら、再び、アシエン達との戦いがあった時、今度は光の加護は得られないかも知れない。
だけど、ハイデリンが言う様に、私だけではなく、多くの人の光の意志があるのなら、闇の意志を退ける事も不可能では無いはず。
「……ありがとうございます。そして、また、いつか」
既に星の光程に小さくなったハイデリンの姿に、私は頭を下げ、別れを告げたのだった。
幻視から戻った私は、ひたすらに通路を駆けていた。
既に魔導アーマーの足元まで炎は回り、もう、そんなに長くはもたないかも知れない。
それでも、私は諦めることなく、一縷の希望にしがみ付き続けていた。
「……見えた!!」
そして、通路の角を曲がった時、そこに、出口が見えた。
夜闇の中に、一つだけ灯る外灯の明かりが、まるで希望の光の様に見える。
私は、爆発に揺れる機体にしっかりと掴まりながら、全速力で機体を外へと飛び出させたのだった。
ドォォンッ!!
大きな爆発が背後で発生するのと、機体を飛び出させたのは、ほぼ同時だった。
一瞬、爆炎に包まれた機体だったけれど、すぐに纏わりついていた炎は消え、私も、サンクレッドさんにも怪我は無かった。
…少しだけ、髪の毛が焦げちゃったけど…。
「…ふぅ」
なんとか、無事に脱出できたことに、私は安堵の息をついた。
その姿を見て、みんなが笑顔を見せながら駆け寄って来た。
「おかえり!」
そして、ミンフィリアさんが、泣き笑いの表情を浮かべながら、私にそう言ってくれた。
「ただいま!!」
私は、ミンフィリアさんに、そしてみんなに、そう答えたのだった。