「夜風が気持ちいいなー」
ウルダハで、親書を届け終わった私は、再び、リムサ・ロミンサに戻り、エールポートと呼ばれる港に来ていた。
溺れた海豚亭のバデロンさんに、ここの北にあるというサスタシャ浸食洞に、不審人物が出入りしているから、調査を手伝ってほしいと依頼を受けたからだ。
「不審人物…まさか、アシエンじゃないよね…」
先日の、長老の木防衛戦の時に現れた、黒ローブの男の姿を思い出す。
もしも、アシエンが関わっているのなら、また、あの異形のモンスターを召喚された時のような事が起きるかもしれない。
とりあえず、情報収集を兼ねて、エールポートでいろいろと仕事を受けてみることにした。
すぐにでも浸食洞に向かった方が良いのかもしれないけれど、この辺りの土地勘もないしね。
そんな中、とあるイエロージャケットの隊員さんから、付近でクァールの群れと狼犬の群れが、激しく争っていると聞いた。
ただ、クァール自体は、このあたりには生息していない、外来種らしく、その辺りの詳しい話を知っていそうな商人に話を聞き出して欲しいらしい。
あ、いたいた。あの人だ。
「な、なんなのさアンタは!…ハッ! まさか連中からの追手なんじゃ……!? ひぃぃぃっ!」
声をかけるやいなや、突然走り去る商人さん。
慌てて追いかけていくと、今度は用心棒を嗾けてきた。
まぁ、そんなに苦労せず対処出来たけれど、いきなり失礼な人だなー。
「あわわ……勘弁してよ!アタシはただ、繁殖用にクァールを仕入れただけ!猟犬どもをけしかけたのは、海賊のアンタらでしょッ!」
うーん。なにか、いろいろと思い違いされているなー。
私が、事情を説明すると、拍子抜けした様にいろいろと説明してくれた。
要約すると、狼犬を訓練して戦力なるという触れ込みで、繁殖させては売り捌いていたところ、海賊が、クァールで同じことをやろうとして失敗したらしい。
その際に、狼犬を、逃げたクァールに仕掛けたことがきっかけで、今のような状態になったらしい。
なんて身勝手な話なんだろう。
お金のために、生き物を良いように利用するなんて。
その報告を受けた、イエロージャケットの隊員さんも、すごく憤慨していた。
その隊員さんから、おそらく、まだ残っているであろう狼犬の保護と、クァールの退治をお願いされた。
保護の方は判るんだけど、退治は…と眉を顰めた私を見て、隊員さんは困ったように、理由を説明してくれた。
そっかー。人を襲うようになっちゃってるのか…。
それは確かに、放ってはおけないか……うぅ……。
それから、私は、また商人さんに話を聞いて、狼犬を保護することに成功した。
まだ子犬なのに、まわりを魔物がウロウロしている様なところに放置されて、お腹も空かせて、すっごく怯えてた。
クァールの方は……親の方は、狼犬と戦って、相討ちしたみたい。
近くに、大人の狼犬の死骸があった。
その事を、イエロージャケットの隊員さんに伝えに行こうとしたところで、クァールの死体の下で、子供のクァールが泣いているのに気が付いた。
その子クァールは、とても弱々しく、にーにー泣いていた。
だけど、大きくなれば獰猛なクァールになるかもしれないし、このまま放置するわけにもいかないので、とりあえずこっちの子も保護することにした。
「なるほど…そんな事が…」
隊員さんは、私が保護してきたクァールを見下ろしながら、呟いた。
「今回の事件に関わった海賊は検挙したし、一応の終息したと見ていいんだろうけど…とても後味の悪い事件だったね…。問題は、このクァールだけど…幼獣とはいえ、猛獣には変わりないし…かといって、幼い命に手をかけるというのも……」
そう言いながら、頭に手をやる隊員さん。
その時、子クァールが、「にぃ…」と声を上げながら、私にすり寄ってきた。
「……たぶん、親を亡くしたばかりで、守ってくれた君に縋っているのだろうね。どうだろう、この子が間違いを起こさないよう、面倒を見てくれないだろうか」
「えええっ!?」
冒険しながら、そんなこと出来るんだろうか…?
「にぃ…」
ううっ…そこで、その目はずるいよぉ…。
「わ、わかりました…がんばってみます…」
「そうか! ありがとう! ……ところで……」
「まだ、なにか…?」
なんだか嫌な予感がする…。
「こっちの子もお願いするよ! 詰所じゃ、勝手に狼犬を飼うことは出来ないからね」
そういって、隊員さんは、先に引き渡した子狼犬を出してきた。
……やっぱり……。
「……うぅ……。わ、わかりました…。この子も面倒見ます…」
「にぃ」
「ワン!」
この日、旅の道連れが増えました。