「武具にやどりし ヒトがココロ〜。マテリアかわりて かがやきはなつ〜」
「マテリアかがやき ココロのキオク〜。あらたな武具へと マテリアつけりゃ〜」
「キオクのチカラ うけつぐぞ〜! いかなるチカラを うけつぐか〜?」
「はよう ためして みたいぞなー!」
突如始まった合唱に、私は目を点にしながら、身じろぎひとつ、出来なくなっていた。
誘拐事件の真相を暴いた報告をした後、ミンフィリアさんに、とあるゴブリンを訪ねるように言われた。
そのゴブリンは、武器や防具の強化について、独自の素晴らしい技術を持っているらしく、私のこれからの冒険にきっと役に立つという。
ミュタミクスさんと言う、そのゴブリンは、キャンプ・ブラックブッシュの北の山間に研究所を構えていた。
そして、声をかけた瞬間、助手さん達との合唱が始まってしまったのだった。
気を取り直して、ミンフィリアさんに紹介された旨を伝え、同時に、預かってきたナイフを手渡す。
「こいつぁ しょんぼい 武器だぞな〜! マテリア つけにゃ しょんぼいままぞ〜!」
ナイフを受け取ったミュトスさんは、呆れるように声を上げる。
確かに、私から見ても、なんの変哲も無い、市場で安く売られている様な、粗悪品に見える。
その時、側にいた助手さんが、ミュトスさんに何かを手渡した。
「ほれほれ 一同 ご注目〜! マテリアつけりゃ〜 かがやきはなつ〜」
それを受け取ったミュトスさんは、ナイフとそれを合わせる様に、手で包み込むと、そこに魔力を貯め始めた。
やがて、その魔力は光を放ち始め、パーンという音ともに、弾けた。
そして、そこには、先ほどよりも、遥かに上質なナイフが出来上がっていたのだった。
「マテリアとは、使い込まれたことで、人の想いが染みついた武器や防具を、特殊な技術で結晶化させたもの……」
「そうしてできたマテリアを新たな装備品に装着することで、想いの力を受け継がせ、性質を強化できるわ」
「今回のようにボロ武器は、そこそこ使えるようになり、強い武器は、より強くすることができるということだな」
助手の方達が、マテリアについての説明をしてくれた。
つまり、要約すると、ある程度使い込んだ、武器や防具には想いの力が宿ることがあり、それを結晶化する事で、他の武器や防具に、その想いを引き継ぐことが出来る……という事なのかしら。
確かにこの技術は、近い将来、蛮神問題が激化した時に、必要になってくるのかも知れない。
ただし、自分で武具にマテリアを合成するには、ある程度クラフターとしての技術が必要となるらしいから、そっち方面の修行も必要になるみたいだけれど…。
…クラフターかぁ…。
木工師や、鍛冶師、甲冑師などといった、モノ作りのクラス。
今の私は、弓術士で手一杯だったりするので、まだ、その辺りには手は出していないけれど、もちろん、興味はある。
良い機会だから、なにか初めてみようかな……?
家を手に入れるためには、冒険で得られる報酬だけではなく、そういった、物を売る仕事を通じての、資金集めもしないといけないかもだし。
とりあえず、帰り際に、助手さんに、マテリア結晶のつくり方を教えてもらったので、帰ったら、古くなってしまった弓なんかで試してみる事にしよう。