異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

猛る焔神イフリート 後編

「徒に愚かなり人の子よ……。我が聖火によりて、その魂を焼き鍛えん!」

 

イフリートは、直接頭に響いてくる声で、そう言い放つと、体を仰け反らせ、真っ青な炎のブレスを吐いてきた!
その炎は、広場にいた不滅隊の人を飲み込み、悲鳴の声すらも掻き消しながら、全てを包み込んだ。

私も、その炎から逃れることは出来ず、全身を青い炎に包まれていた。
直後に襲い掛かってくるであろう痛みに、思わず身を固くする私だったが、何故かその時はいつまでたっても訪れることはなかった。

(……あれ? 熱くない……?)

不思議に思いながら体を見回し、どこも怪我していないこと確認する。
周りを見渡してみると、不滅隊の人達も、火傷の一つも負っていないようだった。

一体…?

そう思った時、何かがおかしいことに気が付いた。
よく見ると、不滅隊の人達も、ウグスト達も、みな、虚ろな表情を浮かべていて、さっきまでの恐怖や怒りといった感情が見えなくなっている。
そして、口々に、イフリートを称えるような、縋るような言葉を発し始めたのだった。

 

「ぬう……奇々怪々……。なぜゆえ貴様の魂は焼き鍛えられ、信徒に……「テンパード」にならぬ!?」

アマルジャ族の司祭が、私を見下ろしながら、驚愕の声を上げる。

信徒……テンパード?

テンパードという言葉の意味するところは解らなかったが、どうやら、さっきの青い炎は、洗脳を施すようなものだったのだろうと予測できた。
ただ、なぜか、私には効かなかったみたいだけど…。

「他の神の祝福を、既に受けているのか……? しかして、お主の魂からは、他の神の色が見えぬ……」

イフリートが、私を見下ろしながら唸り声を上げる。
どうやら、私がすでにほかの神の信徒になっていると勘違いしているようだけど、もちろん、私には身に覚えはない。

「徒に厄介なり……。なれば、禍根残さぬためにも、ここで始末してくれよう……さらば神知らぬ人の子よ!」

イフリートは、そう吠えると、私の逃げ道を塞ぐように、炎の壁を周囲に張り巡らせた。

「イーディスさん!」

その時、物陰にいた、カノンノさん達が飛び出してきた。
イフリートとの決戦が避けられない判断したのだろう。
3人共、既に臨戦態勢に入っていた。

私も、弓を構えると、蛮神との決戦を覚悟したのだった。

 

 

煉獄の中での戦いが始まった。

イフリートは、焔の神と呼ばれるだけあって、身を焦がすほどの熱量を持った攻撃を繰りだしてくる。
炎のブレスは勿論、灼熱に焼けた爪での攻撃や、角での突き刺しなど、気を抜ける攻撃は一つもない。
近接攻撃以外にも、時折、マグマを召喚しては、それが地面を割りながら吹き上げてくるので、常に足元に注意を払いながら戦う必要があった。

ジリジリと肌が焼けるような熱さの中、戦いは続いた。
基本的に、イフリートの注意は、カノンノさんが引き付けてくれていたものの、私達も常に動き続ける必要があったので、時間が長引けば体力がもたない。
とはいえ、相手はまがりなりにも神と呼ばれる存在。
早々、決着が付くとも思えなかった。

「兵貴神速……「炎獄の楔」にて、この者へ裁きを!」

その時、イフリートが爪を空に向けたかと思うと、巨大な槍が降ってきた。
それは轟音と共に地面に突き刺さると、周囲の熱量を吸収するように、炎を上げて燃え上がり始めた。

「……?」

何が起こるのかと身構えたが、それは相変わらず燃え続けている。
とはいうものの、決して油断は出来ない。

その時、ナンテさんが、魔力の流れの異常を察知した。

「あれ、ヤバい! 魔力がどんどん高まっている!」
「!!」

その言葉に、改めて槍に視線を移す。
そういえば、イフリートは「炎獄の楔にて、この者へ裁きを!」と言っていた。
つまり、あれを使って何か大きな技を使おうとしている…?

壊さないと!!

嫌な予感に突き動かされるように、私は、槍…楔に攻撃を集中し始めた。
それを察して、イフリートはマグマを吹き上がらせながら、私達の邪魔をしてくる。
同時に、イフリートが魔力を溜め始めているのを感じた。

魔法職ではない私から見ても、その魔力の溜まり具合が尋常ではないのが判る。
おそらく、あの魔力が溜まりきる前に、楔を破壊しないと、とんでもないことになる。

 

 

そこからは、時間との勝負だった。
矢が刺さり、攻撃魔法に晒されるたびに、楔に亀裂が走っていったが、なかなか破壊するまでには至らない。
そうしているうちにも、イフリートの魔力は高まり続けている。

…間に合わない…あともう一息で楔を壊せそうなのに…!!

その時、イフリートの溜めた魔力が解放された。

四方に巨大な炎の柱が上がり、辺り一帯を地獄のような炎が包み込む。
視界が眩い光でいっぱいになり、あまりの轟音に、周囲の音も聞こえなくなる。

……あぁ、なんだか綺麗だな……。

棒立ちになりながら、茫然とその光景を見ながら、我ながら、おかしな事を考えているなと思った。

 

パキンッ…。

 

その時、なにか小さな音が聞こえた。
何の音だろう?

しかし、その音の正体を確認する間もなく、全てが白で塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

気が付くと、そこは元のバトルフィールドだった。
みんな、大きなダメージを受けたものの、誰一人として倒れてはいない。

……!! まだ戦いは続いている!!

慌てて、弓を構え、イフリートに狙いを定める。

ふと、傍らを見ると、粉々になった楔が、燃え尽きる様に小さな炎を上げると、崩れ去って行くのが見えた。

どうやら、ダメージを受けた楔が、イフリートの技の魔力に耐えきれなかったみたい。
そのせいで、術が不完全だったのかもしれない。

「あとひと息です!」

ぽよさんが掛け声をかけると共に、回復魔法をかけてくれた。

「正々堂々……我が敵に相応しい!」

私達が生き残っている事に驚愕しつつも、不敵に笑みを浮かべるイフリート。
負けるわけにはいかない!!

 

そこからは、気力の勝負だった。
さっきの様な大技はなかったものの、イフリートの攻撃は勢いを増すばかりで、少しも気を抜けない。
矢を打ち込んでは避ける、回避しては矢を打ち込む。
それを何度も繰り返し、徐々に、イフリートの体力を削っていったのだった。

 

「不倶戴天……その祝福……もしや光の……!?」

そしてついに、イフリートが、その巨体を、地響きを立てながら地に倒した。
その巨体が、燃え尽きる蝋燭の様に、パッと燃え上がり、そして散り去る様に消えていくと、そこには何も残っていなかった。

 

倒した…!!

私は、安堵と共に、力いっぱい、喜びの声を上げたのだった。

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