「ローレンティスを、とっちめてくれたようじゃないか。ついさっき、双蛇党から連絡があったぜ」
バスカロンドラザースに戻ると、バスカロンさんが嬉しそうに、事件を解決した私を労ってくれた。
バスカロンさんの話によると、ローレンティスも、ちゃんと双蛇党に出頭したみたい。
本当に、改心してくれると良いんだけど…。
「っと、それよりも、シルフ族の⻑老の居場所について、ようやく情報が入ってきたぜ」
そういって、バスカロンさんは、話を切り出してきた。
バスカロンさんの得た情報によると、長ちゃまは、バスカロンドラザースの裏手にある、トトラクの千獄と呼ばれる、地下牢の近くで目撃されたらしい。
その地下牢も、30年以上も前に放棄されてから、殆ど近寄るものもなく、警備の衛士が巡回している程度なのだという。
なぜ、そんなところで、長ちゃまが目撃されたのかは判らないけれど、帝国兵の件もあるし、急いで探しに行くべきだろうという話になった。
「だだだだ、誰か助けてなのでふっち! たたたた、大変なのでふっち!」
その時、一人のシルフが、酒場へと飛び込んできた。
かなり慌てている様子のそのシルフは、トトラクの千獄に、長ちゃまが入り込んだまま、一向に帰ってこないことを私達に訴えてきた。
なぜ、そんな危険な場所にと思ったけど、どうやら、帝国兵から身を隠すために、中に入り込んだらしい。
私は、パパリモさんたちに、そのシルフの保護をお願いして、トトラクの千獄へと向かったのだった。
トトラクの千獄には、グリダニアの衛士が、門番として立っていた。
衛士さんに話を聞くと、シルフは見ていないが、休憩している隙に入られてしまったのかもしれないと言っていた。
内部は、バスカロンさんのいうように、非常に危険な状態で、単身での入場は禁止されているとの事だったので、私は、急いでクォーリー・ミルに向かう事にした。
「一緒に、トトラクの千獄に行ってくれる方、いませんか!!」
そうして、私の呼びかけに応えてくれた、ジェイロさん、ルムさん、ネムリムさんと共に、再び、トトラクの千獄へと向かったのだった。
「ここが、トトラクの千獄…」
トトラクの千獄の内部に、足を踏み入れた私の頬を、じっとりとした空気が撫でた。
長く放置された壁や天井には、湿気によるカビやコケがびっしりと生え、私達の行く手を遮っているかのようだった。
入り口に居た衛士さんから得た情報を元に、私達は、魔物を排除しながら、魔導セルと呼ばれる魔器を回収していく。
衛士さんの話では、地下牢が使われていた時代の仕掛けで、囚人が脱走しないように、各階ごとに結界が張られているため、それを解除するために必要なのだという。
ただ、長い年月の間に、魔導セルがどこにあるのか、どうなっているかは全く分からないので、地道に探し出していく必要があるという事だった。
魔導セルをいくつか回収し、しばらく進むと、結界が張られている部屋へと辿り着いた。
足元には、たぶん、魔導セルを入れるのだろう機器が置かれていた。
「こ、れ、でっ…と」
機器に、魔導セルを一つ一つ入れていく。
その時、天井に生えていた花が落ちて来たかと思ったら、襲い掛かってきた。
どうやら、植物の魔物が潜んでいたらしい。
すかさず、ジェイロさんが、間に割って入ってくれたので、その隙に、リペリンクショットを打ち込みながら、魔物との距離をとる。
毒草の魔物だったようで、時折、毒性のある花粉のようなものをまき散らされたりしたけれど、特に問題もなく、魔物を排除した私達は、結界を開き、先へと進んで行ったのだった。
「ここは……!?」
2つの結界を超え、おそらく、最深部と思われる大広間に入った私達は、そこで不審な人影を発見した。
その、見覚えのある、黒いローブの人影は、待ちかねていたかの様に、ゆっくりとこちらに振り返る。
「アシエン!」
『来たか、焔神イフリートを退けた冒険者』
彼は、私を見ると、知らない言葉で話しかけてきた。
知らない言葉なのだけど、なにを言っているのかは理解できる。
これが、ミンフィリアさんの言っていた、超える力の効果なのだろう。
『ほう……? この言葉が理解できるのかね。言語の壁を超えるか。やはり、あの力を持っているということだな』
私が、その言葉を理解できる事に得心が入った様に笑みを浮かべるアシエンは、エオルゼアの言葉語り始めた。
「君とは、初めてお目にかかる。君たちの言葉で話させてもらおう。我が名はアシエン・ラハブレア。真なる神の僕……」
「君は、実に興味深い存在だ。……いや、君と、君の中の存在と言ったほうがいいかな。久しいな、光の者よ……。いや、星に巣喰う病巣よ!」
恐らく余裕からなのだろう。
ラハブレアと名乗るアシエンは、悠長な自己紹介をしてきた。
……聞いて……感じて……それは邪悪なるもの……
その時、ハイデリンの声が、頭に響いてきた。
アシエンが邪悪なるものなのはわかるけど……わざわざハイデリンが警告してくるほどの相手という事なのかしら。
「君は少し……神の領域に近づき過ぎた……消えてもらうよ。そのクリスタルと共に」
ラハブレアがそう言いながら、彼の後ろに居たセルマイトに、黒い魔力をぶつける。
その直後、セルマイトが巨大化して、私達に襲い掛かってきたのだった。
巨大化したセルマイトは、元々持っていたであろう毒性を、ラハブレアの魔力でかなり強化されているみたい。
特に、尻尾の毒針は、体の大きさに比例して巨大化しており、そこから獲物に流し込まれるであろう毒の量も、想像を絶するものになっているようだった。
特に、毒尾が脱皮した後は、その毒針がひと際大きくなっており、それを地面に突き立てては、周囲を毒の池に作り変えてしまうのには、かなり難儀させられた。
加えて、部屋のそこかしこに、粘着性の粘液や糸がまき散らされていて、足場に注意を払わざる得ない上に、コチューの繭もあって、下手に移動すると、足を取られたり爆発に巻き込まれたりする状況は、常に移動しながら戦う事を基本としている弓術士にとって、非常にやりずらい状況だった。
それでも、なんとか、巨大化したセルマイトを倒すことが出来たのは、ひとえに、ジェイロさん達が居てくれたおかげに他ならない。
ラハブレアには逃げられてしまったけれど、全員無事で済んだのは、本当に幸いだった。
「……ところで、長ちゃまは……」
ラハブレアの事は気になるけれど、そもそも、トトラクの千獄には、長ちゃまを探すために入った事を思い出した。
ここまでの工程の中で、それらしき姿を見なかったので、ここに居るのではないかと思ったのだけど…。
と、その時、天井から、何かの繭のようなものが落ちてきた。
「…繭…?」
多分、セルマイトが、捕獲した餌を繭にしたものだと思うのだけど、なにやらガサガサと動いている。
そして、次の瞬間、繭を突き破って、何かが飛び出してきた!
「ぷっはぁぁ……! やっと出られたのでぶっち!」
そこから飛び出してきたのは、年老いたシルフ族、フリクシオ長ちゃまだったのだった。