「いかにもアタシがアルブレダだが……。ハリベルトの紹介だって!? 相変わらずの大バカ野郎め、昔の女を頼るだなんて!」
アラミゴ解放軍を紹介して貰うため、クォーリーミルへと向かった私は、アルブレダさんという、アラミゴ流民とグリダニアを仲介している人を訪ねた。
彼女に、ハリベルトさんの名前を出したら、少々驚いてはいたみたいだけど、信用はして貰えた様で、早速、メッフリッドという人を紹介してくれたのだった。
「俺が、栄えあるアラミゴ解放軍の一員、メッフリッドだ。今は故郷を追われた哀れな敗残兵……だがな。で、冒険者さんが、この俺にいったい何の用だい」
メッフリッドさんを訪ねると、特に胡散がられるでもなく、すんなりと対応してくれた。
リトル・アラミゴの人達とは違い、まだ、彼は、心の壁を、そこまで高くはしていないようだ。
「メ、メッフリッド隊⻑ッ! ガリエンの奴、傷が膿んで、どえらい熱だ! おそらく……今夜が山ですぜ……」
その時、解放軍の仲間と思われる人が、血相を変えて、メッフリッドさんの元へと駆け込んできた。
どうやら、逃亡中に怪我をした仲間の具合が良くないらしい。
メッフリッドさんは、治療を受けさせてほしいと、クォーリーミルの住人に訴え続けているみたいなのだけど、聞き入れて貰えていないらしい。
「なんだって、メッフリッドの部下が!?」
アルブレダさんを通じて、再度、治療を施して欲しい旨を伝えて欲しいと頼まれて、私はアルブレダさんに事情を説明した。
だけど、彼女から帰って来たのは、協力出来ないという言葉だった。
なんでも、森の掟で、彼らに手を貸す事は出来ず、その禁を破ることで、クォーリーミルの住人全員が、森の怒りをかってしまうのを恐れているのだという。
村に居る道士にも、同じように事情を説明したけれど、帰ってきた言葉は、同じように、掟に従って手を貸せないという、非情なものだった。
グリダニアが、森の精霊を大事にし、それに従っているのは、私もよく知っている。
だけど、目の前で、死に直面している人を放って置くことが、精霊の意志だとは、とても思えない。
仮に、今、グリダニアに住む、全ての人々が、森の精霊から拒否されたとしても、それに従うと言うのだろうか。
古の掟に盲目的に従うという事が、私には、思考停止を選択しているとしか思えず、そのやり場のない怒りに肩を震わせたのだった。
「ち、ちくしょう……何が精霊の意思だッ!? そんなもん、クソッ食らえだ!」
クォーリーミルの住人の、無慈悲な返答に怒りに声を荒げるメッフリッドさんに、私自身は、冒険者であり、グリダニアの民というわけでは無いので、出来ることがあれば手伝うと伝えると、彼は、アンテロープの角を集めて欲しいと懇願してきた。
なんでも、アラミゴでは、アンテロープの角は万能薬として重宝されているのだという。
ただ、アラミゴに生息しているアンテロープとは、種が違うらしく、アラミゴ式での調合方法は使えないらしい。
こちらのアンテロープの角の調合方法を知っているだろうという事で、私は、一路、バスカロンドラザースへと向かったのだった。
「よぉ、お前さんか! 冒険者稼業の調子はどうだい?」
バスカロンドラザースに入ると、バスカロンさんが喜んで歓迎してくれた。
急いで、彼に薬の調合方法を訪ねると、今から調合するんじゃ時間がかかるからと、作り置きの薬を手渡してくれたのだった。
「ありがとうございます! これで仲間たちを無駄死にさせずにすみます!」
メッフリッドさんの元へ薬を届けると、隣に居た部下の方が、それを手に、傷を負っている仲間たちの元へ走って行った。
「ありがとう。助かったぜ」
そういって、メッフリッドさんも頭を下げてくる。
薬が間に合うと良いと良いんだけど…。
「た、隊長! 大変だ!! ガリエンの奴がいなくなっちまった!!」
「なんだと!?」
その時、薬を持って行った部下さんが、慌てて駆け戻って来た。
どうやら、一番深い傷を負っていた人が姿を消してしまったみたい。
メッフリッドさんに、その人の捜索をお願いされた私は、急いで、クォーリーミルの外へと走り出たのだった。
「……いったい、何処に……?」
その時、ウルズの泉へと続く洞窟近くで、なにか物音がしたような気がした。
ガリエンさんが森を抜けようとしているのなら、逆方向な気もするけど、もしかしたら迷っているのかも知れない。
気になった私は、洞窟へと向かったのだった。
「…いた!」
洞窟の入り口付近で、蹲る人影を見つけた私は、慌てて、そこに駆け寄った。
「はぁはぁ、チクショウ……。て、敵だ! 気をつけろっ!」
近づく私に気が付いたのか、その人影…ガリエンさんが、絶え絶えな声で、警告を発してきた。
それと同時に、物陰から、ゴブリンが姿を現す。
私は、素早くゴブリンに射かけると、ガリエンさんから引き離すように距離をとって戦い始めた。
ゴブリン族は、爆弾を使うので、もし爆風に巻き込んでしまったら、それが致命傷になりかねないからだ。
充分に、ガリエンさんとの距離をとれたことを確認した私は、影縫いやリペリンクショットを駆使しながら、ゴブリンを倒したのだった。
「ガリエンッ!」
ゴブリンを倒した直後、メッフリッドさんも駆けつけて来た。
メッフリッドさんの姿を確認したガリエンさんは、自分の事は置いて、リトル・アラミゴへと向かってほしいと訴えた。
「バカ野郎! 部下を切り捨てて何の隊⻑かッ!」
その瞬間、メッフリッドさんの叱咤が飛んできた。
どんなに孤立しても、どんな逆境だろうとも、祖国の復興を誓う「同志」を見捨てたりはしないと。共に、アラミゴの土を踏むまでは、絶対に死なせたりしないと。
「メッフリッド隊⻑……」
その力強い言葉に、ガリエンさんは感極まった様に涙を流しながら、頷いていた。
その後、ガリエンさんの傷は大事には至らなかった様で、私は、安堵した。
そして、改めて礼がしたいというメッフリッドさんに、私がここに来た理由を話し、協力して貰えないかと持ち掛けたのだった。
「いいだろう、世話になった礼も兼ねて紹介状を書こう」
そういって、メッフリッドさんは、グンドバルドさん宛ての紹介状を書いてくれたのだった。