「んー! 潮風が心地いいー!!」
照りつける太陽の下、コスタ・デル・ソルの桟橋の上で、私は思いっきり伸びをした。
リムサ・ロミンサからほど近いとはいえ、小さな小舟での移動は、やっぱり窮屈なのよね。
「ヴェイスケート…だったかしら。すぐに見つかると良いのだけど」
ヤ・シュトラさんが、陽射しの強さに、目を細めながら呟いた。
…気のせいか、グレイフリート風車群での一件のせいで、だいぶイライラしている感じかするのよね…。
「俺がヴェイスケートだが、何の用だ?」
目的の人は、意外と簡単に見つけることが出来た。
トラッハトゥームさんと違い、如何にも歴戦の古強者といった風体を持つ人で、ひと目で、伝説の傭兵団の一員であったという説得力が、そこにあった。
「……何っ? お前たちが、蛮神タイタンを討伐するだと?」
「ええ、そうよ。リムサ・ロミンサに被害が出る前に、討たなくてはならない……」
ヤ・シュトラさんが、ヴェイスケートさんの問いに応える。
「フンッ! お前たちのような英雄気取りに、とても、討伐できるとは思えんな」
あ。まずい。
ヤ・シュトラさんの柳眉がぴくりと逆立ったのが見えた。
「なぜかしら? このイーディスは、ウルダハで召喚された、蛮神イフリートを倒した実績を持っているし、蛮神のテンパードになる事もない、特別な「力」を持っている」
「危険なのは十分理解しているわ。だからこそ、海雄旅団の副団⻑だったというあなたに、わざわざ、話を聞きに来たのよ」
ヴェイスケートさんの言葉が、相当に気に入らなかったのだろう。
ヤ・シュトラさんが、一気に畳みかける様に言葉を紡いだ。
それにしても、何時の間に、ヴェイスケートさんが、海雄旅団の副団長だったなんて調べたんだろう。
「……いったい、どこでその話を……まぁ、いい。俺たち海雄旅団は、生え抜きの命知らずだった」
ヤ・シュトラさんの剣幕もどこ吹く風で、ヴェイスケートさんがなにかを思い出すかの様に語り始めた。
「俺たちは、名誉のために、多くの犠牲をいとわず、数々の蛮神を倒してきたが、その中でも、蛮神タイタンは別格だった」
「奴のために何人の仲間が散っていったことか……蛮神とやり合おうってんだから、それなりの力は持っているんだろうが……しかし、俺がお前たちの力を認める理由はねえ」
「別に、あなたに信頼して貰わなくてもいいわ。それでも、私たちはやらなくてはならないのよ。リムサ・ロミンサを……いいえ、エオルゼアを救うために」
もう、二人とも真っ向から視線をぶつけ合って話している。
バチバチと火花が見えるような状況に、私は、小さく嘆息した。
「そうかい。じゃあ、まぁ、好きにするといい。だが、俺は、力量を認めない相手に情報を渡すつもりはないんでな。どうしてもというのであれば、いくつか依頼をこなして貰う」
「なんですって!? 蛮神タイタンの脅威は、そこまで迫っているのよ!?」
どうやら、ヴェイスケートさんは、すんなりと情報を教えてくれるつもりは無いみたい。
とうとう、我慢ならなくなったのか、ヤ・シュトラさんは、怒りを露わにして、ヴェイスケートさんに詰め寄った。
「それが嫌なら、自分たちで探すことだ。オ・ゴモロ山の火口に乗り込む方法をな」
やはり、相当に場数を経験しているからなのか、ヴェイスケートさんの方が、一枚上手に見える。
ヤ・シュトラさんも、それを判っているのか、相当に悔しそうだ。
「……悔しいけれど、ここは話をのむしかなさそうよ。これ以上、回り道はできないわ」
苦虫を噛み潰したような表情で、ヤ・シュトラさんは、ヴェイスケートさんの言葉を受け入れることを提案してきたのだった。
「はい! 依頼、受けます」
私は、ヴェイスケートさんに向かって手を上げると、その条件をのむことを伝えた。
「よし。それじゃ、さっそく、依頼の内容を伝える……近々、このコスタ・デル・ソルに要人が訪れる。その人物の歓待のために、「特別な晩餐」を用意しろというのが、依頼内容だ」
「特別な晩餐?」
ヴェイスケートさんは、私の言葉に、ニヤリと笑みを浮かべながら、言葉を続けた。
「そうだ。そして、その特別な晩餐を用意するためには、「エオルゼア三大珍味」と呼ばれている食材が必要だ。お前にはエオルゼアを巡り、その「珍味」を集めてもらう」
そういうと、ヴェイスケートさんは、まずは、黒衣森のキャンプ・トランキルへと向かえと指示してきた。
なんでも、そこに、海雄旅団の元部下の人がいるらしく、その人が、珍味の入手方法を知っているのだそうだ。
そうして、私は、「別の方法がないか調べてみる」という、ヤ・シュトラさんを残して、南部森林へと向かったのだった。