異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

ワインが紡ぐ言葉

「現在、このワイナリーで採れるブドウのほとんどは、「ローランドグレープ」という品種です。品質も、けっして悪くはありません。しかし、この品種では、私の求める最高のワインは作れないのです……」

シャマニさんが言うには、かつて、ローランドグレープを品種改良をしていく中で、偶然、作られたブドウ種があったのだという。
「バッカスグレープ」と呼ばれるそのブドウ種の中でも、このワインポートの肥沃な大地でしか育たないと言われる、大粒の実を、一流の醸造師が精魂込めて醸造することで、初めて生まれる、奇跡のワイン。
「バッカスの酒」と呼ばれた、そのワインこそ、シャマニさんが、追い求めてやまない、究極のワインなのだという。

「しかし、バッカスグレープの木は、第七霊災で全て焼き落ちてしまったと聞きます……つまり、もう、バッカスの酒を作れないのです」

そう言って、肩を落とすシャマニさん。
もしかしたら、バッカスの酒自体は、ここの醸造師が秘蔵しているかも知れないとは言うけれど、そんな価値のあるものなら、きっと手放しはしないだろうと思う。

実際、ワインポートにいる醸造師に聞いてみたものの、やはり、良い返事は聞くことは出来なかった。

「……そうですか……悔しいですが、バッカスの酒は、諦めるしかないようです……しかし、特別な晩餐に合う、最高のワインは、きっと見つけて見せます! 何か良い手を考えますので、少し時間を頂けますか?」

そして、その間に、お願いしたいことがあると言われ、私は、シャマニさんからの預かりものを手に、レインキャッチャー樹林へと向かったのだった。

 

 

「……何か用か……あの盲目の男が、ワインを俺に?」

レインキャッチャー樹林の中ほどにある小屋を訪ねた私は、シャマニさんからの届け物を、その人、ドレストさんに手渡したのだった。

なんでも、このドレストさんは、シャマニさんの命の恩人らしく、失明して、失意の中、各地を放浪していたころに、彼に命を救われたのだという。
そんな彼に、シャマニさんは、自分が初めて仕込んだワインを、是非、飲んで貰いたいと、私に託したのだった。

「フン、余計なお世話だ、礼はしねェぞ……」

そう言いながら、ワインを受け取ったドレストさんは、不意に、中空をきょろきょろと見回し始めた。

「また……この音か……うう……うううう」
「……うううう、う……うるさい……うるさい……うるさいうるさいうるさい……うるさい……うるさいうるさいうるさいさいうるさいううううるさいッ!!」

突然、頭を抱えたかと思ったら、錯乱した様に声を上げるドレストさん。
私には聞こえないけれど、どうやら、羽虫の音のようなものが、彼には聞こえているみたい。

その時、微かに、小屋の外から羽虫の音が聞こえた気がした。

慌てて、外に飛び出してみると、確かに、羽虫の群れが近くを飛んでいるのが見えた。
私は、急いで弓を構えると、羽虫を駆除したのだった。

 

「……あんたが、羽虫どもを……消してくれたのか…………ありがとよ、やっと耳鳴りが……おさまったぜ」

小屋に戻ると、落ち着きを取り戻したドレストさんが、へたり込むように座っていた。
その額には、びっしりと汗が浮いているのが見える。

「……あ、あんた、子どもはいるかい……? 俺には2人いる……息子と、娘……いつか会いに帰る……そのために俺は逃げてきた……」

少し落ち着いてきたのか、ドレストさんが、身の上話をはじめた。

「俺はガレマール帝国兵……エオルゼアの憎き仇敵だ」
「!?」

突然の衝撃的な告白に、私は息を飲む。

「…いや、元、帝国兵か……偵察隊にいたんだが、黑渦団の奇襲で部隊は全滅……悪夢のような……いや、悪夢そのものの撤退戦だった」

床を見つめたまま、ドレストさんは話を続ける。
小刻みに肩が震えているのは、当時の事を思い出しているのかも知れない。

「泥を飲み、地虫を食って、生き残ったのは俺ひとり……いったい、何故、こんな仕打ちを!? 俺は、生粋の帝国市民じゃない! 故郷のダルマスカは、帝国に支配され、属州に組み込まれた国だ! 俺は、エオルゼアに、これっぼっちも恨みもない……ッ!!」

やり場のない怒りを訴えるドレストさんに、私は、なにも返す言葉が見つけられなかった。

「憎しみあう必要のない者たちが殺しあう……これが、戦争ってものだとしたら! 狂ってやがる……ッ! 俺は……生きる……! 故郷にいる子供たちの顔をもう一度見るまで! こんなところで……死んでたまるかッ!」

ドン!

ドレストさんが振り上げた拳が、床に、鈍く、重い音を響かせた。
この人も、帝国の侵略戦争の犠牲者なのだ……私は、彼の震える拳を見つめながら、そう思ったのだった。

「……すまなかった。俺の話を聞いてくれたのは、お前が初めてだ……」

暫くして、ドレストさんは顔あげて、私にそう言うと、是非、シャマニさんにお礼を届けて欲しいと伝えて来たのだった。

 

「……これかな?」

小屋の近くの渓流で、私は、ヤシの実に入ったワインを回収していた。

ドレストさんから言付かったのは、この「ココナッツワイン」と、昔、彼が、シャマニさんに言った、「生きろ」という言葉の重さに、今さらながら自分も気が付いたという伝言だった。

ワインのお返しを、ワインで。
そこには、なにか、言葉ではない、想いのやり取りがあるのかも知れない。

そんな事を、日に輝く樹林を見つめながら。思ったのだった。

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