異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

バッカスの酒

私は、再びレインキャッチャー樹林へとやってきていた。
それは、ドレストさんが、シャマニさんに贈った、ココナッツワインに隠されていた秘密が原因なのだった。

 

「……なるほど、ドレストさんがそんな事を……あの時、ドレストさんの言葉が、私の心に響いたのは、あれが彼自身に向けた言葉でもあったからなのですね」

ドレストさんからの贈り物である、ココナッツワインと、言葉を受け取ったシャマニさんが、しみじみと言葉を紡ぐ。

「……?」

その時、シャマニさんが、ココナッツワインを手探りで確認していた手を止め、首を傾げた。
そして、ココナッツワインの器になっている、ヤシの実の栓がわりに詰められていた、葉を入念に触り始めた。

「……これは…まさか……でも、この手触り…形……間違いない……!!」

徐々に興奮の度合いを高めていくシャマニさん。
次の瞬間、シャマニさんは、私に掴みかからんばかりの勢いで、大変です! と伝えて来たのだった。

 

ヤシの実の栓に使われていた葉。
それは、失われたはずの、バッカスグレープの葉だった。
もしも、どこかに、バッカスグレープの木が残っていて、枝の一振りでも手に入れることが出来れば、接ぎ木をして、バッカスグレープの木は繁殖させることが出来る。
それはすなわち、バッカスの酒を復活させることが出来るという事。

突然、降って湧いた、バッカスの酒への道に、シャマニさんは興奮を隠せないようで、すぐさま、ドレストさんに、葉っぱの出どころを確認して欲しいと、懇願されてしまったのだった。

 

「よう……またあんたか……何か用か? ああ……この葉っぱか? 栓代わりに詰め込むのに、ちょうどいい大きさだったんでな…そうか、珍しい葉だったのか……」

ドレストさんによると、その葉、バッカスグレープの葉は、小屋から少し奥地へと行ったところにある、沼沢地に落ちていたのだという。
恐らく、その辺りに生息する、「シェズム・グゥーブー」と呼ばれる、グゥーブー種の頭に生えている、草木から落ちたものだろうという事だった。

「採りに行こうってのなら……止めとけよ……奴は、この樹林を我が物顔で闊歩する、危険な魔物の親玉さ……生きてこその人生だ……無茶はよせよ」

そう、警告を添えるドレストさん。
とはいうものの、少なくとも確認はしないといけないし…。

私は、ドレストさんにお礼を告げると、密林の奥へと向かっていったのだった。

 

沼沢地は、小屋から程近いところにあった。
恐らくガレマール帝国の飛行機械と思われる残骸が中央に突き刺さった沼は、その光景と裏腹に、とても綺麗な水を湛えていて、周辺の動物や魔物の水飲み場となっている様だった。
水を飲んでいる魔物たちの中には、グゥーブー種の魔物の姿も見受けられたけど、シェズム・グゥーブーらしき魔物の姿は見えなかった。

その時、にわかに、魔物たちの様子が慌ただしくなった。
皆、なにかに怯える様に、森の茂みの向こうを凝視している。

ガサガサッ

なにかの物音が聞こえた瞬間、一斉に逃げ出していく魔物たち。
私は、弓を構えて警戒すると、物陰に隠れて、様子を見ることにしたのだった。

 

それから程なくして、地響きを響かせながら、一体の大きなグゥーブーが姿を現した。
他のグゥーブーよりも、一回り大きな体躯を持つ、そのグゥーブーは、明らかに強力なオーラを纏っている様に見える。
恐らく、あれが、ドレストさんの言っていた、シェズム・グゥーブーだろう。

「……あの葉っぱの形……!!」

シェズム・グゥーブーの頭の上、そこに生えている草木の中に、手持ちの、バッカスグレープの葉と同じ葉を付けている枝を見つけた私は、覚悟を決めた。
そして、意を決して、物陰から躍り出ながら、その巨体に弓を撃ち放ったのだった。

 

 

「どうでしたか、枝は見つかりましたか!?」

シャマニさんは、今か今かと、私の帰りを待ちわびていた様だった。
私は、興奮さめ止まぬシャマニさんに、シェズム・グゥーブーから手に入れた、一振りの枝を手渡した。

「……これは、この香りは、間違いない! これを育てれば、きっと蘇らせることができますよ! 伝説のバッカスグレープを!!」

それがバッカスグレープの枝だと確信したシャマニさんは、私の手を取りながら、喜びの声を上げた。

「聞こえましたよ! い、今の話は本当なのですか!? 私でさえ諦めていた「バッカスグレープ」の枝を、貴方達が見つけた、と!?」

その時、ひと際大きな声が聞こえてきた。
振り向くと、ビルギレントさんが、驚愕の表情を浮かべながら、こちらに走り寄って来ているところだった。

「……た、確かに、その枝はバッカスグレープ! 今まで素人と侮っていた貴方たちが見つけるとは……その情熱と知識を認めぬわけにはいきませんね……」

バッカスグレープの枝を見て、唸るビルギレントさん。
寄越せとか、変なこと言い出さないと良いけれど…。

「ビルギレントさん、これを」

そんな事を考えていた時、シャマニさんが、バッカスグレープの枝をビルギレントさんに差し出した。
なにを!? と思ったのは、私だけではなかった様で、ビルギレントさんも、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている。

「……貴方は私に、この枝を託すというのですか!?」
「ここで最高の腕を持つのは、ビルギレントさん、貴方です。ともにバッカスグレープを……そして、バッカスの酒を復活させましょう!」

そういって、シャマニさんは、ビルギレントさんに握手を求めたのだった。

「その熱き想いを、今まで見抜けなかったとは…… わかりました、この枝はともに育てましょう」
「そして数年後、バッカスの酒を再び、今度は我々の手で!」

そういって、シャマニさんの手を、強く握り返すビルギレントさんの姿を見て、私は、少し、彼への評価を改めるのだった。

 

「冒険者さんのおかげで、バッカスの酒の復活目途が立ちました! 本当にありがとうございます! ……しかし、特別な晩餐のお酒の問題は解決していませんね…さすがに、バッカスの酒の完成を待って頂くわけにも行きませんし……」

改めて、私に礼を告げて来たシャマニさんだけど、晩餐用のお酒の問題は、何も解決していない事に気づき、肩を落としていた。

「これをお持ちなさい」

そんな私達の様子を見て、ビルギレントさんが、一本のワインボトルをシャマニさんに手渡してきた。

「こ、このラベルの肌触り……まさか、バッカスの酒!? それに……ラベルから漂うこの香り……。幻と言われる、1547年の最高級ヴィンテージワインでは!? ……すべて失われたと聞いていたのに、なぜ……」

ボトルを手に、驚愕の声を上げるシャマニさん。
どうやら、ビルギレントさんが、手をしてきたワインは、バッカスの酒だったみたい。

「私個人の秘蔵コレクションの一本です……人に運命があるように、ワインにも運命がある。このワインは貴方たちのため、霊災を生き残ったのでしょう」

その言葉に、ゆっくりと頷いた後、シャマニさんは、そのワインを、私に手渡してきた。

「……冒険者さん、これは貴方がお持ちください」

そして、さらに言葉を続ける。

「目から光を失った私には解ります……さまざまな人が貴方によって救われた。貴方の「心」の強さが、それを成し遂げたのです」
「さぁ、早く、コスタ・デル・ソルへ。特別な晩餐に合う、最高のワインを届けてください。副団長もきっとお待ちかねですよ!」

私は、その言葉に頷いて、ワインを受け取ると、一路、コスタ・デル・ソルへと向かったのだった。

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