異世界の詩

見習い詩人のエオルゼア冒険記ブログ

罪深き愚者

「おお、そのたたずまい…… 秘められた真実を見抜く心と、強さを手にしたようだね」

南部森林にいる、ジェアンテルさんを訪ねて行った私の姿を見て、彼は、感嘆の声を上げながら、歓迎してくれた。
そして、今なら、この詩に込められた教訓を、正しく読み取れるだろうと、「罪深き愚者」と呼ばれる詩歌を聞かせてくれたのだった。

『驕りし弓兵 見張りに飽きた 月を見上げて 愚考した
今こそ攻め時 敵地へ向かわん
千の敵を射ころし 千の仲間を助けん
愚かな弓兵 罪を犯した 軍命に背き 勇み矢放つ
驕りし弓兵 雄叫び聞いた 後ろ振り向き 慙愧した
敵兵攻め込み 自陣は壊乱
千の敵を射ころし 千の仲間も亡くした
愚かな弓兵 罪から逃げた 天罰求めて あがき矢を折る』

「……さて、この愚か者の詩歌からは、学び取れることが無数にある。だが、言葉による理解に価値などありはしない」
「お主の行動を、じっくりと見守らせてもらうとしよう……今回はわしと、ある場所へ同行してもらいたいのだ」

そういってジェアンテルさんは、黒衣森の北部森林にあるゲルモラ遺跡へと、私を誘ったのだった。

 

ゲルモラ遺跡に到着すると、その一角に、石碑が置かれているのが目に入った。
その石碑は、それなりに時間の流れを感じさせはしたものの、ゲルモラ遺跡のものよりは新しい様だった。

『時神アルジクよ 雨を天に返し……かつてみた戦いを 我とこの者に 語りたまえ……』

石碑近づいた時、ジェアンテルさんが竪琴を奏で始めた。
しかし、その音色と詩に耳を傾けていた時、それを邪魔する無粋者が現れたのだった。

「イクサル族…!!」

何者かの気配を感じて、見てみれば、向こうから、何匹かのブラックウルフを連れて、イクサル族がこちらに向かってくるのが見えた。
イクサル軍伐採所からの斥候と思われる、そのイクサルに向けて弓を構えた時、隣にいるジェアンテルさんの様子がおかしい事に気が付いた。

「ジェアンテルさん…?」

既に、ジェアンテルさんは、私の声が聞こえていない様で、弓を構えようとした姿のまま、身動きが取れなくなっている様だった。
なにか小さく呟きながら、体を震わせているジェアンテルさんの腕を取ると、彼は、そこでやっと我に返った様だった。

「ここは、私に任せて下さい!!」

私は、体調が優れ無さそうなジェアンテルさんに、身を隠すように促した。
その言葉に、苦悶の表情を浮かべながら頷いたジェアンテルさんは、走り去っていったのだった。

 

 

「危険にさらしてしまい、すまなかった……わしは弓を捨てたのではない、もはや弓を射れぬのだ」

イクサル族を倒した後、合流した私に、ジェアンテルさんは、訥々と過去を話し始めた。

それは、「中央高地の惨劇」と呼ばれる事件の真相だった。
当時、「強弓」と呼ばれ、自分の弓術士としての実力に驕っていたジェアンテルさんは、見張りの命令を無視して持ち場を離れ、それが原因で、多くの仲間を死に追いやってしまったのだという。

「今でも、目を閉じるたび……仲間が……わしを責めたてる。だが、あの日、わが魂も、仲間の命とともに粉と砕けた……」

そういって、地面に置いた、自分の弓を見下ろすジェアンテルさん。
私は、かける言葉が見つからず、ただ、黙って聞いているしか出来なかった。

その時、私の持っていた吟遊詩人の証が光り輝いた。

「……お主の心に、古き旋律が響いたか。お主に新たな学びがあったのが、せめてもの救い……」

その光を見て、ジェアンテルさんは、僅かに眉尻を下げると、先にいつもの場所に戻っていると言い残して去って行ったのだった。

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