「無事に戻ったか。危険に巻き込んで、すまなかった……何度でも謝ろう」
南部森林のいつもの場所に戻ると、見るからに疲れた表情を浮かべる、ジェアンテルさんが居た。
やはり、改めて、自分が弓を射ることが出来ない現実を目の当たりにして、かなりショックを受けている様だった。
「今一度、お主に聞いてもらいたい願いがある……お主の詩歌を、わしに聞かせてはくれまいか」
えええ!? 今、ここで!?
こ、心の準備が……とはいえ、断れる雰囲気じゃないし……うう……。
「わ、わかりました……」
そう答えると、私は、竪琴を取り出し、旋律を奏で始めた。
エオルゼアに来た時の事。
冒険者として歩き始めた時の気持ち。
その中での出会いと別れ。
そんなことを、たどたどしく弾き語ったのだった。
「……素晴らしい。ここまで、よくついてきてくれた」
私の詩を聞き終えて、ジェアンテルさんは、感心するように評価してくれた。
そして、詩を通じて、わたしの成長を確認し、弓術と詩歌、いずれも自分を超えつつあると確信したという。
まだまだな気もするけれど、私は、素直に、その言葉に喜ぶことにしたのだった。
「わしがお主へ教えられることなぞ、もういくらもない。今こそ、お主に「吟遊詩人の装束」を託そう……といっても、ここには無いのだが」
かつて、ジェアンテルさんは、モーグリ族のプクノ・ポキから、吟遊詩人の証と共に、古の吟遊詩人が纏っていたという装束を受け取ったのだという。
それは、古の吟遊詩人達が、時神アルジクへの祈りを込めてこしらえた逸品で、とても素晴らしいものなのだそうだ。
しかし、当時、中央高地の惨劇の罪から逃れたい一心で、死地を求めてエオルゼアを彷徨い歩いていたジェアンテルさんにとって、その装束を持つことへの重みは耐え難く、疎ましくすら思えたらしい。
「装束は、各地に……いずれも危険な地に、置かれている。だが、おぬしなら、きっと、全てを集められると信じておる」
そういうジェアンテルさんを残して、私は、吟遊詩人の装束の探索に出発したのだった。
吟遊詩人の装束は、本当に辺鄙なところに隠されていた。
蛮神リヴァイアサンによって、不毛な地にされた、ハーフストーン。
聖女ウルズが、悪神オーディンによって切り殺されたと言われる、ウルズの恵み。
第七霊災の混乱時に、ガレマール帝国と激しい闘いが繰り広げられた、ラウバーン緩衝地。
危険なシルフ領の再奥地にあり、テンパードされたシルフ達の集会所にもなっている、金葉台。
その何れも、死地を求めて彷徨うジェアンテルさんの、足跡を語るような場所だった。
そのひとつひとつを巡り、時には魔物から身を隠し、時には魔物を排除しながら、私は、装束を回収していった。
不思議だったのは、長い年月を経ている筈なのに、まるで、昨日、そこに置かれたかのように、誰にも見つからず、装束の入った麻袋が、そこに存在していた事だった。
その状態を見て、私は、ジェアンテルさんが言っていた、「プクノ・ポキが「装束が持つべきものを選ぶ」と言っていた」と言うのは、本当の事なのかも知れないと思うのだった。
「おお、戻ったか。見事に4つの装束を集めたのだな! やはり、お主が、装束に選ばれし者だったか……」
4つの装束を手に入れ、それらを身に付けて、再びジェアンテルさんの元を訪ねると、彼は、我が事の様に喜んでくれた。
そして、最後の一つの装束を、私に託す時が来たと、覚悟を決めたかのような表情で、私に告げたのだった。